日本シリーズはレギュラーシーズンよりも「1球」の持つ意味が増す。いかに集中力を保ち、スキを見せないかが勝負の分かれ目となる。そう思いプレーボールを迎えたが、先にスキを見せたのは阪神だった。

初回表、1死から中野が左前打も、続く森下がカウント1-2から外真っすぐに見逃し三振。走った中野も刺され併殺となった。直後、ベンチの岡田監督は厳しい表情から一転、苦笑いを浮かべた。カウントやサインのミスがあったのかもしれない。実際は分からないが、いずれにせよ、2ストライク。森下は振らないといけなかった。一瞬で先制チャンスが消えた。

これで、阪神には当分流れは来ないと感じた。逆にオリックスはその裏、先頭が出塁すれば流れが来る。マウンドは村上。いくら今季の活躍があっても、初めてのシリーズで立ち上がりは余計に緊張する。全体的に球が高く、ゾーンの中で制球できていなかった。だが、1番池田はフルカウントまでいくも右飛。後続も倒れ、村上が踏ん張った。

似た状況は4回にも起きた。阪神は表の攻撃で内野安打と敵失で無死一、二塁とするも、森下が併殺打。またも先制チャンスをふいにした。裏のオリックスの攻撃、先頭は再び池田。この打席もフルカウントまで粘ったが、最後は内にきた逆球の真っすぐに反応できず、見逃し三振に倒れた。

中嶋監督は今季出場12試合のみの池田を初戦の1番に起用した。個人的に驚きはなかった。杉本が欠場し、誰かを使わなければいけない。日替わりでいい選手を使う、いつものスタイルと言っていい。ただ、池田が初回と4回どちらかで出塁すれば、違う展開になった可能性はあった。4回も無得点に終わると、5回に阪神が4点先制。6回にも加点し、試合は決まった。

2年目の池田に背負わせるのは酷だし、この経験を今後に生かして欲しい。その上で言わせてもらうと、オリックスはもらいかけた流れを手放した。自滅と言える。同じことは守りにもあった。山本の投球だ。4回までは、むしろ村上より良かった。ただ、1回り目は真っすぐ中心も、2回り目から変化球の割合が多くなった点が気になった。それ自体はよくあることだが、変えすぎたと思う。

5回、6回は8安打中、5本が真っすぐ系を打たれた。カーブでカウントが取れず、フォークが増えた。たまに真っすぐを投げても制球はつかない。調子も良くなかったとしても、山本は自分の投球をしているようには見えなかった。大事な1戦でデータは徹底的に洗ったはず。ただ、それゆえに、ピンチで相手の苦手を突くことに偏り過ぎて、かえって自らを苦しめた印象を受けた。3年連続投手4冠でもシリーズでは勝てていない。シリーズの難しさを思い知らされる。

対照的に、阪神はシーズン通りの野球だった。3番、4番が打たなくても、下位から出て1番、2番でかえす。村上も尻上がりだった。オリックスはエースで痛い1敗を喫したが、リーグ3連覇の経験値は代えがたい。1つのミスで流れが変わるのが日本シリーズだし、流れを変えられる力を持ったチームでもある。この日の自滅を引きずらず、第2戦に臨むことが重要だ。(日刊スポーツ評論家)

【熱戦!日本シリーズ特集ページ】

オリックス対阪神 試合を見つめるオリックス杉本(撮影・宮地輝)
オリックス対阪神 試合を見つめるオリックス杉本(撮影・宮地輝)
オリックス対阪神 メンバー表を交換するオリックス中嶋監督と阪神岡田監督(撮影・和賀正仁)
オリックス対阪神 メンバー表を交換するオリックス中嶋監督と阪神岡田監督(撮影・和賀正仁)