スタンドでアップを俯瞰(ふかん)しながら、阪神のメンバー表を開いた。今季1軍に出られそうな選手に赤ペンでマルをつけていったら、手が止まらなかった。特に、投手陣は赤マルだらけになってしまった。

予想はブルペンで裏付けられた。一通り見させてもらったが、非常に迫力がある。昨季ブレークした村上は順調。石井もいい。桐敷は力を入れても狙ったところにボールがいっていた。苦労している選手も数人、見受けられたが、全体的に仕上がりが早い。やはり強いチームはこうじゃなきゃ、というブルペンだった。

中でも目を見張ったのは、左腕の門別だ。キャッチボールの時点でセンスの良さを感じた。バランスがいい。下半身の力をうまく上半身に伝え、コンパクトな腕の振りでボールを離す。キレで抑えるタイプ。高卒2年目にしてフォームの完成度が高い。投げる雰囲気にも好感が持てた。言葉では伝えにくいのだが、所作、マウンドさばきといったものだ。キャンプ前に阪神OBから「今のままでも5回までなら抑えられる」と聞いていたが、全く同感。ここからスタミナをつければ、さらにいい投手になるのは間違いない。とにかく、ケガなくいってほしい。

野手も心配はない。昨季と同じ顔触れだが、レギュラー個々の成績をみると、優勝した昨季がキャリアハイだったわけではない。1人1人が昨季を上回る可能性があるわけで、伸びシロに期待できる。ただ、投手に比べると控えの層が劣るのは確か。キャンプでの底上げが大事になる。

強いて不安要素を挙げるなら、日本一による気の緩みだろう。私には苦い経験がある。横浜(現DeNA)で日本一になった98年の翌年、実は「緩んでいる」自覚があった。決して手を抜いたわけではない。オフからいつも通り練習した。それでも、キャンプでは経験したことのないファン、マスコミが押し寄せ、注目度が上がった。達成感で、どこか調子に乗った面もあったと思う。それがスキにつながった。チーム全体、緩みはシーズンに入っても解けなかった。4月終わりになって、ようやくエンジンがかかったが、遅かった。3位で終わった。

連覇の難しさとも言える。阪神も2リーグ制以降は連覇がない。だが、常に注目を受けるチームだけに、優勝翌年だからと選手が浮つくこともないだろう。この日も活気があった。もっとも、心のスキは表面的には見えない。昨季の優勝を心の中でリセットできているなら、今年も阪神は強い。(日刊スポーツ評論家)