ヤンキース田中将大投手(29)が6日、東京・渋谷区内で行われた「ウブロ×田中将大 チャリティーイベント」に参加した。田中は、スイス高級腕時計ブランドであるウブロ社のアンバサダーを務めている。

 子どもたちとのキャッチボール、サンタクロースに扮(ふん)してのプレゼント贈呈、狙った的を射抜くターゲットチャレンジ、自身が監修した腕時計のお披露目などが行われた。

 イベント後の囲み取材は、自然と日本ハム大谷翔平投手(23)の話題になった。田中は大谷をおもんぱかり、踏み込んだ発言を避けた。

-◇-◇-

 「就活中の学生にメッセージはある?」。7年前の6月、田中にこんな質問をした。リーマン・ショックが就活生を直撃し、10年の大卒就職率は60・8%。楽天の本拠地がある仙台市内にもスーツ姿の若者が目立っていた。

 しばらく黙って「ドラフトの指名を待っていただけの立場なんですけど」と断ってから続けた。

 「就職がなかなか決まらないからと言って『自分がダメな人間だ』とは、絶対に思わないで欲しい。ボクだって、楽天に入ったのは縁。楽天に入っていなかったら、1年目からあんなに投げられなかった。縁を大切にすればいい。大切なのは入ってから。自分をしっかり出すことが大事。『入った場所が一番良かったんだ』と思えるように。ボクは、そうやってきました」

 望む環境に身を置けるのがベストだが、かなわなくとも縁を大切にして、ベストを尽くせば道は開けていく。兵庫生まれが北海道で名を売り、仙台でプロ野球選手になった。一般的にはエリートだろうが、超が付くほどではない。葛藤を越え、当時21歳にしてそんな考えに至った経緯を推測するに重みが増して、忘れられない語りになった。

 「世界一になりたい」とヤンキースを選び、折り返しの4年目を終え「ヤンキースでプレーしたいから」と残留を選んだ。選択の自由を得て、考え抜いて下した決断。簡潔でも、何人たりとも立ち入れない意志がにじんでいる。

 大谷も今、4年前の自分と同じ立ち位置にいる。来季ともにプレーすることはなくなり「別に…そういう決断だったと受け止めているが、それ以上はない」と話した。大谷には大谷の、積みに積み上げて培った職業観が絶対にある。他人が軽々しく立ち入るべきではないと、誰より分かっているのだろう。【宮下敬至】