グラウンドに同じ背中が散らばっているのを見て、広島のチームスタッフがつぶやいた。「こんなに愛されている人、いないでしょうね」。7日のレギュラーシーズン最終戦。試合前の光景は面白かった。

首脳陣、選手、スタッフの全員が、今季限りでユニホームを脱ぐ新井の功績をたたえるTシャツを着用していた。会沢選手会長の発案だったという。

新井は目を丸くさせていた。「知らなかった。そうやってもらってうれしい。俺、まっちゃん(松山)のサヨナラ打Tシャツ着てたんだよね。サインもらったから。そしたらアツ(会沢)から、これを渡されたんだよ」。渡されたのは現役最多242併殺打、現役最多1693三振、現役最多175失策と記された“逆3冠Tシャツ”。「なかなか秀逸なデザイン」と百戦錬磨のベテランも一本取られたと苦笑いだった。

練習開始前の円陣では、1人だけ違うシャツを着た新井が発声した。「ビールかけの時にも言いましたけど、本当の戦いはこれからです。みんなと1日でも長く野球をやりたいので、僕も最後まで頑張りますけど、皆さんの力で日本一、よろしくお願いします」。その言葉には、周囲をグッと引き込む力があった。

「レギュラーシーズンは最終戦だけど、感傷に浸ることはまったくない。CSファイナルのことだけを考えている」。143試合目は出番がなくベンチで迎えたが、目線は先に向いている。希代のエンターテイナーはどんなフィナーレを迎えるのか。ポストシーズンは試合に出ても出なくても、主役の1人になる。【広島担当 大池和幸】