長く巨人をけん引した内海哲也投手(36)が、人的補償で西武に移籍することが20日、発表された。

西武入団会見に臨んだ内海(左)はユニホームを着用し渡辺SDから帽子をかぶせてもらう(2018年12月21日撮影)
西武入団会見に臨んだ内海(左)はユニホームを着用し渡辺SDから帽子をかぶせてもらう(2018年12月21日撮影)
西武入団会見でユニホームを着用し笑顔で「L」ポーズをとる内海(2018年12月21日撮影)
西武入団会見でユニホームを着用し笑顔で「L」ポーズをとる内海(2018年12月21日撮影)

原稿を書いている今も、心のどこかで「夢なのでは」と思っている。08年に初めて巨人担当を任され、西武担当、アマチュア野球担当を経たが、巨人には内海哲也が変わらずにいた。

20日の正午半、衝撃に襲われた。携帯電話を見ると、3件の不在着信があった。会社の先輩、敦賀気比のOB2人からの着信が続いていた。「まさか…」。嫌な予感がして、すぐにインターネットを開いた。

「巨人内海 人的補償で西武へ」

瞬間的に携帯電話の電話帳の「内海哲也さん(巨人)」を選択し、通話ボタンを押しかけたが指を止め、ホーム画面に戻った。1秒でも早く話をしたいし、思いを伝えたい。そう思うほど、指が止まった。

  ◇◇◇◇    

11年間、間近で見てきた内海哲也はとにかく、人を大切にする気づかいの男だった。10年の宮崎合同自主トレ初日、新人だった長野、市川、土本の歓迎会を主催した。山口鉄、東野らとともに記者も誘われたが、事前にこう言われた。

内海 新人の子に『気を使わんでええよ』と言っても、難しいやろうから。記者の立場で『こんな話を聞きたいかな?』てことを、どんどん振ってや。

翌年、沢村が入団した時も同じだった。オフのトレーニングに話が及ぶと「来年、一緒に自主トレやる?」と誘った。「よろしいんですか?」と驚く沢村に「よっしゃ」と快諾。記者が知る限りでは、史上最速でルーキーの自主トレ先が決まった。

巨人合同自主トレ 内海哲也(右)と東野峻(2010年01月28日撮影)
巨人合同自主トレ 内海哲也(右)と東野峻(2010年01月28日撮影)

つい先日もそうだった。今季限りで現役を引退した山口鉄也氏の引退パーティーをサプライズで開催。1カ月以上も前からプロジェクトを立ち上げ、参加メンバーとともに場所、プレゼント、企画を綿密に打ち合わせた。「グッさんが、新たな人生に進むんやから。盛大に送り出すで」。前日には、司会者とともに予行演習した。昔も今も「人のために」を一番に考える人だった。

現役引退会見 引退会見に臨んだ巨人山口鉄也(中央)はサプライズで駆け付けたチームメートの、左から菅野智之、宮国椋丞、内海哲也、沢村拓一、1人おいて坂本勇人、今季限りで引退する杉内俊哉、長野久義、村田修一氏らの祝福に笑顔を見せる(2018年10月5日撮影)
現役引退会見 引退会見に臨んだ巨人山口鉄也(中央)はサプライズで駆け付けたチームメートの、左から菅野智之、宮国椋丞、内海哲也、沢村拓一、1人おいて坂本勇人、今季限りで引退する杉内俊哉、長野久義、村田修一氏らの祝福に笑顔を見せる(2018年10月5日撮影)

  ◇◇◇◇    

通話ボタンを押せないまま、気付けば辺りはもう、真っ暗だった。「何と言えばいいんだろうか…」。考えれば、考えるほど、時間だけが経過した。「ショックです。信じられません」と言えば、新天地にかける前向きな気持ちを邪魔するのではないだろうか。「西武はいい球団です。西武で活躍する姿を見たいです」と言うのは、少し早すぎないか。2つの思いが、交錯していた。

時計の針が午後6時55分をさした時、着信音が鳴った。画面に表示されたのは「内海哲也さん(巨人)」だった。一言目に「すみません。いろんなことを考えてしまって…。言葉が見つからず、連絡できませんでした」と正直に話した。内海さんは「そうやったんか。あいつからきぃへんなと思って、こっちからかけてもうたわ」と笑っていた。

3連覇で大喜びする内海哲也(中央)ら巨人の選手たち。左は山口鉄也(2014年9月26日撮影)
3連覇で大喜びする内海哲也(中央)ら巨人の選手たち。左は山口鉄也(2014年9月26日撮影)

巨人に入団して以降、原監督が口にする「個人よりも巨人」を愚直に遂行した。だから「西武では自分のため、家族のために、自分のパフォーマンスに集中して、1勝でも多く、1年でも長くプレーしてほしいです」と伝えた。

内海 寂しいけど、自分を必要としてくれたわけやし、内海哲也であることには変わらへんから。今はほんまに『やってやる』っていう気持ちしかないで。でも、1つだけお願いがあるんやけど…。

「何ですか?」と身構える記者に、こう言った。「巨人担当として、自主トレの取材には来てよ。オレのことはいいんやけど、ノブ(今村)と大江を取り上げてくれへんか? 将来、ジャイアンツを引っ張っていける投手やと思ってるし、ほんまに頑張ってほしいから」。この状況下でも、自分のことより、後輩を思いやった。

人的補償での移籍を通達され、球団事務所で職員にあいさつした時には多くの職員が涙を流し、内海も人目をはばからず泣いた。情に熱く、周囲の心をも熱くさせる。それが、内海哲也なのである。【久保賢吾】