初めて降り立った栃木・小山市で何に驚いたかといえば、その地肩の強さだ。正確なスローイングだ。華やかな守備力を目の当たりにして、「大学日本代表4番」という肩書ばかりに脳内を支配されていた自分が、ちょっと恥ずかしくなった。秋風を感じると思い出す記憶だ。

もう4年も前になる。当時は阪神担当。ドラフト日の配置はいわゆる「東京飛び出し要員」だった。関東近辺で記者を配置していない学校の選手を阪神が指名した場合、都内のドラフト会場から急行する役割だ。

虎の1位指名は桜美林大の佐々木千(現ロッテ)かな。それとも創価大の田中(現ソフトバンク)かな。まあ、両大学とも記者は配置されているしな。そんな風にのんびり構えていたら、「阪神1位指名 大山悠輔」のアナウンスで状況が一変。白鴎大の最寄り駅、JR小山駅に到着するまでとにかく焦り続けた。

なんとかドラフト当日の会見に滑り込み、キャンパス近くの宿に宿泊。翌日は練習を取材させてもらうため、小山市内の球場に向かった。情けないかな、記者の予備知識は限りなくゼロ。そんな状況で初めて目にした三塁手大山に対する衝撃の大きさは、今でもよく覚えている。

軽やかな足さばき、グラブさばき。背筋をピンと伸ばした姿勢から繰り出される送球がとにかく強い。腕を縦に振るから左右のブレも少ない。

「スローイングに自信がある。(白鴎大の)監督も、試合で悪送球を見たことがないと言っていた。かなりレベルが高いよ」

当時の金本監督が1位指名直後にそう絶賛するほど、ルーキーの守備力はすでに際立っていた。

あれから4年。三塁手大山は今季、ついにその潜在能力を存分に発揮し始めている。

ここ3シーズンの三塁守備を分かりやすい数値で比較すれば、守備力の向上がよく分かる。

18年は117試合出場のうち104試合で三塁を守り、守備率9割7分3厘、6失策。昨季は143試合出場のうち130試合で三塁を守り、両リーグワーストの20失策、守備率は9割4分5厘まで落ち込んだ。それが今季はここまで105試合出場のうち97試合で三塁を守り、守備率は9割7分台に回復。失策数も6にとどめている。

もちろん守備を評価する指標は他にも多数あるが、単純な数値で比べただけでもV字回復は明らかだ。2月の沖縄キャンプでは早出特守を毎日敢行。泥まみれになった日々が今、血となり肉となっているのだろう。

昨季は開幕から4番の重圧を一身に背負った疲労も影響したのか、送球面でのミスも少なくなかった。今季は送球に本来の力強さと安定感が戻り、球際の強さも増した印象だ。素手キャッチから間一髪でアウトをもぎ取るなど、迷いなく果敢に勝負するシーンも目立つ。三塁守備も進化していると表現して、差し支えはないだろう。

打っては10月27日のゲームを終えた時点でリーグ最多タイの26本塁打。4番として完全に覚醒した感がある大山だが、注目すべき姿はフルスイングだけではない。「打って守れる選手に」。理想の追求に貪欲な25歳。名手と呼ばれる日も、そう遠くはない気がする。【遊軍=佐井陽介】

指名あいさつに訪れた阪神金本知憲監督(右)からドラフトIDカードをプレゼントされ笑顔でポーズを取る白鴎大・大山悠輔(2016年10月20日撮影)
指名あいさつに訪れた阪神金本知憲監督(右)からドラフトIDカードをプレゼントされ笑顔でポーズを取る白鴎大・大山悠輔(2016年10月20日撮影)