ヤンキースFAの田中将大投手(32)が28日、古巣楽天との契約に基本合意した。

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楽天の三木谷オーナーに、亡くなった星野仙一さんへの思いを聞く機会があった。マー君の復帰に触れ、3年前のメモを読み返してみた。

「リーダー、エース。精神的な部分の重要性を非常に理解している人でした。例えば、将大がメジャーに行くときに突然、ポスティング制度が変わって。我々がどうしようかという時に『いやオーナー。将大は今年、これだけやったんだから。行かせてやってくれ』と。ならば…と、なったわけですよ。仁義に厚い人。そういうモノが、組織のマネジメントに徹底していた」

星野監督は田中を「別格」と認め、大人扱いしていた。同時に、20代前半の青年がふいに見せる、あどけなさを好んだ。わが子を語るような優しい顔で、よく話していた。

「練習中、将大に『開幕投手』って書いたボールをひょいって渡したら、そのまま隣のヤツに投げ渡しちゃいそうになって。焦ったわ。粋な演出をしたつもりだったのになぁ」

「田中さん、今日は1人で完封して下さい。お願いしますね今日は。よし、手を合わせよう。『神様、仏様、田中さま』って。ほら、みんなも」

2人には深い笑いジワに共通点があった。

1度だけ、厳しい指摘を聞いたことがある。10年前の3月7日。前日、冷たい春雨の中で苦戦した長崎のオープン戦を振り返った時だった。「今から言うこと、みんな覚えておいて欲しいんだけど」の前置きが印象深く、忘れられなかった。

「環境面で、今の選手は恵まれている。困難な環境でどう対処するか。対応力、臨機応変さが実は、最も重要。ボールを動かす意識をもっと持っていい。メジャーの世界でも、フォーシームで空振りを取れる投手はノーラン・ライアンとトム・シーバーしかいないと言われていた。キャッチボールから探求心を持つこと。一流が皆、持っている資質だ」

星野さんは、帰ってきた田中になんて言葉を掛けるんだろう。案外「おぉ、帰ってきたのか」とか素っ気ないだろうな。ただ洗練されたボールを見たらグッと身を乗り出し「将大、やりよるな。大人になったな」とうなるだろう。

マー君復帰の報を聞いた野球好きは、誰もが月日を感じ、自分のアルバムをひもとき、あれこれ思いを巡らせたのではないか。オンリーワンの存在は、一気に時空を巻き戻してくれる。【宮下敬至】


◆宮下敬至(みやした・たかし)99年入社。04年の秋から野球部。担当歴は横浜(現DeNA)-巨人-楽天-巨人。16年から遊軍、現在はデスク。

ヤンキース田中(2016年8月13日撮影)
ヤンキース田中(2016年8月13日撮影)
楽天時代の田中将大(2013年5月1日撮影)
楽天時代の田中将大(2013年5月1日撮影)