“ラオウ”は自然体を貫き、覚醒した。オリックスのラオウこと杉本裕太郎外野手(30)の取材コメントが、ファンを楽しませている。チームメートから「ラオウさん」と呼ばれる理由は、人気漫画・北斗の拳に登場するラオウに「男っぽい」と心酔しているという極めてシンプルな由来だ。

今季は主に4番に定着。ここまで101試合に出場し、打率3割1分2厘はリーグ3位。25本塁打はリーグトップタイで、69打点もリーグ3位タイ(9月11日終了時点)。現時点で令和初の「3冠王」に最も近い数字を記録している。190センチ104キロの体格から、一見、こわもてに見えるが、取材時は物腰が柔らかい。今回は担当記者が「ラオウ語録」をまとめてみた。

<1>19年オフの契約更改 

19年は18試合に出場し、4本塁打。当時はプロ4年間で13安打中7本が本塁打の破壊力。才能開花まで、あと1歩のところにいた。来季の目標を問われると「米津玄師さんより知名度を上げる」と珍回答。「徳島商業の1つ上の先輩。高校の文化祭でも歌ってました。ジャンルは違うけど、負けないようにしたい」。

<2>昨年2月下旬の宮崎キャンプの紅白戦で本塁打 

「バットを軽くしたんです。870グラムから800グラムに。カープの羽月に『バット貸して!』と。オモチャみたいに軽いのに、打球速度を測ったら、元々のバットで打ったときと数値が変わらなかった。それなら操作性を重視」。167センチ、70キロの羽月(当時19歳)からヒントを得た。体の大きさも、年齢も関係ない。

<3>昨年5月。コロナ禍でシーズン開幕が延期 

メジャー通算282発を誇る助っ人アダム・ジョーンズ外野手を「先生」と慕う。大阪・舞洲で志願して打撃理論を教わり、新発見。「後ろのお尻を(投球に)ぶつける感覚。そうすれば、両手と上半身はくっついてくるから、意識しなくてもスムーズにバットが出る」。NG打球は「引っかけたゴロ、ポップフライはダメ」と指摘され「練習からライナーを打つイメージで。試合になれば相手も本気で投げてくる。投球が強くなる分、飛距離が伸びる」。ジョーンズからは「体が俺よりも大きい。そこが(ラオウの)魅力だろ? だったら思い切って振った方がいい」と背中を押された。

<4>昨年のシーズン開幕時。無観客試合が決定 

ファンが再び来場するのを心待ちにして「外野スタンドで応援してくれているファンに、ホームランボールをキャッチしてほしいんです!」。その日のために、強くバットを握りしめた。

<5>風呂場で「一緒に行くぞ!」 

中嶋監督代行が指揮を執ることになった8月21日西武戦(京セラドーム大阪)で昨季初の1軍昇格。午前中、大阪・舞洲の球団寮にある風呂場で指揮官に「一緒に行くぞ!」とゲキをもらい「僕にとっては今日が開幕」と意気込んだ。

<6>今年2月15日の宮崎キャンプ紅白戦で今季1号 

「だいぶ詰まったんですけど、振り切れた。(走者が)三塁だったのでフライを打ちに。ゴロにならず、フライになってよかった」。犠牲フライを打つはずが、力があり余って? まさかのスタンドイン。野望は「レギュラーで1年間試合に出ること。自信を持ってやるだけ。練習から自信がつくように、いっぱい練習する。あとは、楽しくやるだけ」とキッパリ。

<7>2月24日の西武戦でファーストを守る「新オプション」

外野手登録だが「7番一塁」で出場。「ミットは自前です。去年、用意してました」と出場機会増を狙った。

<8>自身初の開幕1軍&開幕スタメンを3月26日西武戦(メットライフ)で 

「怪力パワー」を一時的に封印。「今は捨てました。本当はボコボコ本塁打を打ちたいですけど…逆方向にスタンドインできたら完璧かと」。スタイル変更の理由は「浅村バット」。1学年上の楽天浅村のフリー打撃を見て「あんなすごい打球なのに、『浅村さんのバットは軽い』と聞いた」と、オフに自主トレをともにする楽天森原を通じてバットを入手した。

<9>4月8日ロッテ戦(ZOZOマリン)今季1号 

試合前まで今季1安打。「できる限り力を抜いて『打ちたい』と思い過ぎず、リラックスした」と脱力。力を抜きすぎて「ちょっと今日…ホテルをチェックアウトしたときに革靴を部屋に忘れてしまって…。マネジャーさんに迷惑かけたので、絶対、取り返そうと必死に打ちました」。

<10>4月中旬に「昇天ポーズ」完成 

みなさん、ご一緒に!と本塁打を放った際の「昇天ポーズ」参加を呼びかけた。同い年の同僚で親友の近藤の提案。「今は球場でポーズしてるのは僕だけなんで…。みんなでポーズをまねしてほしい。もっと打ちますよ!」と量産を誓っていた。このとき「実は…T(-岡田)さんのディオールの香水を勝手に使ってます。打てなくなるまで使いたいと思います!」と、色気ムンムンの秘密を明かしていた。

<11>4月20日西武戦(京セラドーム大阪)で決勝適時打 

開幕直後は打率が低迷。「(打率が)0割8分まで落ちた。打撃コーチから、全然気にしなくて大丈夫」。脳裏にはレジェンドの声。17年オフ、神戸でイチロー氏の自主トレに参加。「『ホームランばかり狙うのはよくないよ』と。追い込まれたら、待ち方も変えないとって」。突然とあの声がよみがえった。

<12>プロ初のサヨナラ打!4月22日の西武戦 

3点を追う9回2死満塁。T-岡田が起死回生の一撃は走者一掃の同点三塁打。T-岡田に「つなぐ」と言われており「自分で決めてくださいよ…」。だが「3点差…か。満塁本塁打じゃないと。自分に回ってくるつもりで準備してました!」と、プロ初のサヨナラ打を決めた。

<13>5月9日ロッテ戦(ZOZOマリン)は母の日 

初回に7号2ランで9試合連続安打、出場23試合連続出塁。「お母さんのために打ちました!」

<14>5月11日の日本ハム戦(東京ドーム)で看板直撃弾を放ち、賞金100万円をゲット 

特大弾は左中間後方にあるスターツコーポレーションの看板を直撃。球団では07年ローズ以来、球団日本人選手では97年のイチロー以来。100万円の贈呈が決定の場内アナウンスを聞いた年俸1400万円の杉本は「うおおおおお!」と絶叫。ラオウはJR西日本時代に「お金を稼ぐ大変さを学んだ」。土日と平日の社業後に「野球で生きていく」と必死にバットを振った。勤務したのは輸送課。「悪天候や人身事故が起きて、ダイヤが乱れると指示を送るところ」だが、ラオウの主な業務は「書類のシュレッダーやコーヒーシロップの買い足し」。

<15>打撃コーチ、山岡!6月22日の日本ハム戦 

「試合前、山岡(投手)にバッティングを教えてもらったら打てました!」冗談交じりなコメントの真相は「重心位置。軸足(右)に体重を残そうと。その構えのまま足上げたらスムーズに動かない。1度、左足に乗せた方がいいと」と、ド真面目な野球トーク。

<16>1試合2発でロッテキラー襲名。6月29日ロッテ戦 

ロッテは「青学OBがたくさんいらっしゃる。いいところを見せたい。今まで、おるかおらんかわからん選手やったんで…」と“母校愛”を語り「甘い物、好きなんで」と“ロッテ愛”もチラリ。

<17>登録名「ラオウ」検討? 7月上旬。

「ラオウ杉本」の実現が夢でなくなってきた。チーム内のほとんどが「ラオウ」や「ラオウさん」と呼び、青学大の後輩、吉田正のみが「ゆうたろうさん」と呼ぶ。登録名変更の思いを尋ねてみると「うーん、まだラオウに申し訳ない。今の成績じゃ、まだラオウって感じじゃない」と真顔で返答。堂々と背中に「RAOH」をつけられる成績は…。「ホームラン王を取るぐらいでないと、ラオウには申し訳ない」。

<18>6月に自身初の月間MVP獲得 

「奇跡のような1カ月だった。わが生涯の1カ月で1番調子がよかったです!」

<19>“借り物打法”。7月2日の西武戦(メットライフドーム) 

18号先制2ランに、両足の金色2本線が輝いた。「Bと書いてるソックスを忘れちゃって。今日、ソックスを借りたら打てたので西野さんのおかげです!」これまでは4月中旬にT-岡田にディオールの香水を勝手に借り、最近は化粧水を無断使用中。操作性重視のため軽量化している「浅村バット」が、自慢の怪力で折れまくり、メーカーの発注が間に合わない期間は「吉田正バット」を借りた。数試合前までは後藤からはMLB風の「下半身ピチピチユニホーム」をレンタルした。

<19>7月17日。人生初の球宴2戦目(楽天生命パーク)で本塁打 

球宴限定で全打席本塁打狙い。ベンチ前で右拳を突き上げる「昇天ポーズ」を披露し「いっぱいカメラがあった。ここしかない! と思って長めに」と普段より5秒ほど長く“昇天”した。第1戦の試合前の本塁打競争では2発にとどまり、初戦敗退。緊張のあまり? 代打で球宴初出場した際は「間違ってマスコットバットで打席に…」と明かし、豪快に笑った。

<20>T-岡田さん、大好きです!9月上旬 

9月2日の日本ハム戦(札幌ドーム)で、9回に起死回生の同点22号2ラン劇的アーチの感動を伝えたい人がいた。打撃手袋を借りているT-岡田だった。「Tさん、はよ帰ってきてください…」。9月9日にT-岡田が右太もも裏筋損傷から1軍復帰すると、ラオウは24号ソロ。「T(-岡田)さん、おかえりなさいの祝砲を上げられてよかったです!」。10日西武戦でT-岡田が先制11号ソロを放つと、ラオウも25号ソロ。「T(-岡田)さんばっかり目立っていたので、負けたくない気持ちで打席に入っていました!」。

ラオウの覚醒で首位争いを繰り広げるオリックス。シーズンは残り33試合。日々更新される「ラオウ語録」に、ご注目ください。【オリックス担当=真柴健】