球音を背中で聞きながら、長身の男が腰をかがめて客に対応している。ソフトバンクがキャンプを張る宮崎アイビースタジアム横に設置されたソフトバンク携帯会社ブースで、中村晨さん(24)は仕事に励んでいる。

中村さんは15年育成ドラフト4位で熊本・ルーテル学院からホークスに入団。193センチの長身で本格派右腕として期待されたが、育成4年目を終えた19年オフに戦力外に。背番号136を背負って2軍戦に2試合登板したのみ。支配下登録はかなわないまま、引退した。「現役の頃は何も考えずにやっていたというか。もっとどんな風に取り組めばいいのかとか、野球に対して真剣に考えてやっていれば良かったと思います。バカでした」と明かした。

同期のドラフト1位高橋純、谷川原らは1軍で活躍。「グラウンドを見てると、やっぱり野球はやりたくなりますね」と、中村さんは頭をかいた。退団後はソフトバンクの携帯会社に就職。「パソコンも全く打てなかったけど、ようやくできるようになりました」。結婚と第1子誕生を機に東京本社から地元九州に転勤。キャンプ地での営業活動は今季が初体験だ。

ホークスには今季、38人もの育成選手が所属。来年にはさらに拡大させ、4軍構想も練る。「プロはやっても10年。だから君たちは一般の人たちの3日分が1日なんだ」。王球団会長は、新人合同自主トレで19人の新入団選手に訓示した。「本当にそうなんです。今わかっても遅いんですけど」。中村さんは苦笑いを浮かべて、うなずいた。

キャンプ期間中は300件の新規契約が目標だという。第2の人生では「成功」の2文字を勝ち取る。【ソフトバンク担当 佐竹英治】