阪神近本光司外野手(27)の連続試合安打記録に熱狂したのは、甲子園のファンだけじゃない。地元、兵庫・淡路市の人たちも名プレーヤーたちを抜き去る日々に、テレビ中継にくぎ付けになっていた。
その1人が、門康彦淡路市長(かど・やすひこ=76)。「本当にすごいこと。とにかくうれしいですね」。7月上旬、市長室で日刊スポーツの取材に応じ、心から祝福の言葉を並べた。
11年マートンに並ぶ球団記録の30試合連続安打。日本記録にはあと「3」のところまで迫った。同市長は喜びとともに、ある確信も抱いていた。
「淡路市が抱えている課題に対する理想を、近本君が具現化してくれている。島の外へ出ていく優秀なスポーツ選手を悪く言う雰囲気がかつてはあった。言葉汚く言うと『なんやねん、お前、故郷捨てていくんかい』と」
忘れられないエピソードがあるという。「いつだったか、道で会った島民に『市長、すいません』って謝られたんです。『自分の息子が県外の強豪に行く。みんなからなんでやねんって言われているんですわ』と言われてね」。同市のまちづくりのキャッチフレーズは「いつかきっと帰りたくなる街づくり」。根底には、子どもたちにより広い世界を知ってほしいという思いがある。
だからこそ近本、だ。父恵照さん(よしてる=61)、2人の兄は島内の津名高出身。東浦中3年時、そのあとを追わず島外の兵庫・社高へ進学する道を選んだ。当時、父は猛反対したが、小柄な少年は荷物をまとめ、人生初の家出で覚悟を示したほどだった。
そこから関学大を経て大阪ガスで道を開き、プロ野球の世界でトップクラスを走っている。近本自身も昨年12月、淡路市で小、中学生を前に講演会を実施した際、こんなメッセージを送っている。「やりたいことをやるのが一番大事だよ」。そのためには島内も島外も関係ない。ベストな選択をしてほしい、と願っての言葉だ。
門市長は言う。「今はひと言も、誰も文句を言わない。彼が実績を挙げてくれたら、それでええやんかと。そんな流れが出てきましたからね」。背番号5のバットが、淡路島の文化を変えつつある。【阪神担当 中野椋】




