侍ジャパンで投手コーチを務めたオリックス厚沢和幸投手コーチ(50)と話す機会があった。「スベっちゃったなぁ」と振り返ったのは優勝帰国会見のこと。世界一奪還を果たしたWBCで印象的なシーンを問われて「自分的に1つ心残りは準決勝、決勝と“あの宇田川ジャパン”の宇田川をマウンドに上げることができなかった。“あの会長”を、(米国で)お披露目できなかったのは、ちょっと残念だった」と、答えたシーンについてだった。

記者も会見場にいたが、確かに笑い声は響かなかった。だからといって、スベっていたわけではない。偉業を果たした面々が壇上にいる。それだけで場内は緊張感たっぷり。笑える空気感ではなかっただけだ。

もちろん、厚沢コーチも笑いが取りたくてオリックス宇田川の名前を出したわけではない。「本当にいろんな選手が陰で支えてくれていた。目立った活躍ではないかもしれないけど、そういう部分で貢献してくれた選手もいると、強調したかったんだよね」との思いが、あの会見での発言には込められていた。

侍ジャパンは1次ラウンドから7戦全勝で優勝。毎試合、栗山監督と吉井投手コーチと厚沢コーチの3人で理想の継投プランを立てて試合に臨んでいたが、厚沢コーチによれば「決勝だけ、試合前に決めた通りの投手起用ができた」という。世界最強とも呼ばれた投手陣でも想定通りに試合が進んだのは決勝だけ、というのは驚きだった。

そんな厳しい戦いを最後まで勝ちきれたのは、スクランブル登板に対応するべく準備を続けた宇田川らの存在も大きかった。昨季からオリックスでコーチとなり、宇田川の成長を見てきた厚沢コーチが「本当に感謝だよ」とホッとした表情で話していたのが、とても印象的だった。【遊軍 木下大輔】