名手は人知れず“狙って”いた。阪神近本光司外野手(28)の一瞬の仕掛けに気づいた人は、決して多くなかったのではないか。
11日の敵地日本ハム戦。初回1死一塁の守りの場面だ。3番の日本ハム加藤豪の中堅右への当たりは、才木の153キロをしっかりと捉えたものだった。
近本は快足を飛ばし落下地点へ。この時、捕球体勢に入る前に一瞬、グラブを顔の前へと持っていった。すぐにグラブを下げると、今度は捕球のために構える。がっちりとつかみ、内野へ返球。二塁ベースにまで到達していた一塁走者はすぐさま帰塁した。
何げないプレーに映るが、思惑があった。一夜明けた12日、新千歳空港で飛行機を待つ間、その話題になった。かにのほぐし身が詰まった「かにいなり」を頬張ると、冷静に回想した。
「あれ、フェイク仕掛けてんけど。あの球場は、けっこうボールが見にくいっていうから狙ってみてん」
初めてのエスコンフィールド。試合前練習や直前の2試合でスタジアムの照明に慣れた一方、「外野の飛球が見えにくい場合がある」という特性もつかんでいた。最初にグラブを上げた場面は、打球を見失ったフリだった。
この時、一塁走者の郡は盗塁を仕掛けていた。仮に単打でも長打でも、外野守備に隙があれば一気に本塁も狙えただろう。そこを逆手に取ろうとした。郡が近本のトリックにハマり、そのまま次の塁を狙えば、ダブルプレーが完成していたところだった。
今季初の3連敗で臨んだ9連戦ラストゲーム。初回の守りで流れを引き寄せることができれば、チームにとって大きいことは言うまでもない。あわよくば2つのアウトをとることができれば…。結果は“普通のセンターフライ”に終わったが、攻めの守りの発想に、2年連続ゴールデン・グラブ賞の男のすごみが垣間見えた。
この試合、5回にはアルカンタラの打球をフェンスに激突しながらジャンプし、キャッチしている。試合後、そのプレーについての質問は飛んだが、初回のフェイクはスルーされていた。
「気づいてなかったやろ? 一塁走者が飛び出してくれたらと思ったけど、(フェイクは)ちょっと遅かったわ」
不敵な笑みでそう言い残し、関西行きの飛行機に乗り込んだ。【阪神担当 中野椋】




