阪神湯浅京己投手(24)に取材の“ヒント”をもらったのは7月、鳴尾浜でのことだ。

「そういえば、近本さんに本借りたんですよ」

雑談の中で、そんな話をしてくれた。なんの本か。

「ゆるトレっていうトレーニングの本です。ゆるトレって、なんて言えばいいんだろう…魚みたいなやつです」

湯浅の言葉が少し詰まっていたから、気になった。魚? どんな内容なのか。 「詳しいことは近本さんに聞いてみてください!」 そう言われれば、近本光司外野手(28)に当たらない理由はない。

2人がやりとりしたのは、近本が右肋骨(ろっこつ)骨折で離脱していた7月中旬のこと。負傷から回復し同月22日に1軍復帰後、甲子園で「湯浅君に聞いたんですが…」と選手会長に聞いてみた。

「ああ、あれな。本を何冊か買って読んだから、読んでみる? って貸したんよ」と返された。「湯浅君は魚って言ってたんですけど、どんなトレーニングなんですか」とぶつけると「まあな、人間も魚みたいなもんやからなあ」と、すぐには理解できない言葉を残し、グラウンドへと向かっていった。

近本は関学大3年時から、この「ゆるトレ」に取り組んでいるという。遠征先のホテルで、あおむけに寝転んで足で山をつくり、背中を左右に揺らす。まるで魚が泳ぐかのようにゆらゆらと、人類の祖先である魚類のような動きを繰り返す。だから「魚」というキーワードが出てきたというわけだ。

その他にもいくつか種類のある「ゆるトレ」は、交感神経を鎮め、人間本来の自然治癒力を高めてくれる効果があるという。試合中にアドレナリンを放出し、強い興奮状態の中で毎日を戦うプロ野球選手。自律神経のバランスを保つことは、シーズンを戦う上で欠かせない。そのための「ゆるトレ」だ。

湯浅は9月下旬、「ゆるトレ、やってみましたよ」と実践したことを明かした。近本から借りた本の重要箇所を写真に収め、いつでもチェックできるようにしていた。

背番号65は、1日のウエスタン・リーグ広島戦(鳴尾浜)で左脇腹の筋挫傷から回復後、初の実戦に臨む。「近本さんの本、まだ借りたままです」といたずらっぽく笑っていたが、完全復活してからの返却でも、先輩は許してくれると思う。【阪神担当 中野椋】