どこで、何があるか分からない。ヤクルトの新入団選手発表会を見て、そう思った。4日、都内で行われた同会。育成ドラフト1位の台湾・鶯歌工商高・高橋翔聖投手(17)は来年6月に高校卒業のため不参加となったが、その他の6選手が晴れの舞台に登壇した。ドラフト5位のルートインBCリーグ新潟の伊藤琉偉(りゅうい)内野手(21)も、ハキハキと質疑応答に答えていた。

人生、山あり、谷あり。伊藤もそうした中で、縁あってヤクルトに入団した。群馬出身。地元の東農大二高から東農大に進学したが、今年2月に授業の取得単位が足りず大学を中退した。そこで、大好きな野球から離れた。その後は群馬の居酒屋で週2、3度ほど接客業のアルバイトに従事。「ちゃんとはやってなかった」と野球とは距離を置く生活を送っていた。

約3カ月ほど、バイト・伊藤の生活を送っていたころ。兄が、野球人・伊藤へ引き戻してくれた。草野球に誘われたことをきっかけに、野球の情熱が再燃。BC新潟の練習生として入ると、すぐさま中心選手へと駆け上がった。そして、わずか半年でドラフト会議で名前が呼ばれた。「(兄の存在は)大きかったです」と感謝する。「独立入った時点で、NPBっていうのを目指してはいたんですけど。こんな早くなるとは思ってなかったです」と自分でも驚くほどの、逆転人生だった。

180センチ、77キロ。主戦場は遊撃。右投げ、右打ちで、広い守備範囲と、遠投110メートルの強肩が光る。幼少期はサッカーとの二刀流。今でもリフティングは「多分100は出来ると思います」と確かな技術があったが、ここでも「お兄ちゃんの野球見てて、野球になったって感じです」。常に兄が自身の道しるべとなった。「3拍子そろった、選手になりたいなとは思っています」。もしかしたら、そのままアルバイトを送る生活を続けていたかもしれない。野球を辞めていたかもしれない。人間、どこに転機があるか分からない。そう思った1日だった。【ヤクルト担当・栗田尚樹】

ヤクルト新入団選手発表会で高津監督(右)、衣笠球団会長兼オーナー代行(左)と記念写真に納まるドラフト5位の伊藤(撮影・菅敏)
ヤクルト新入団選手発表会で高津監督(右)、衣笠球団会長兼オーナー代行(左)と記念写真に納まるドラフト5位の伊藤(撮影・菅敏)