引退会見を終えたソフトバンク中村晃は、約1時間半後には福岡・筑後市にあるファーム施設にいた。本拠地みずほペイペイドームから愛車のハンドルを握って約1時間。気持ちも体もリセットした。メーン球場で一塁ノックを受けると、室内練習場で打撃練習。若手がロッカー室に引き揚げてもバットを振り続けていた。
バットマンとして今年が「最後の秋」となる。「調子が上がらなかったら、(1軍に)上げないでください」。小久保監督にはそう伝えている。「(プロ野球選手なら)普通のことじゃないですか」。2軍戦前の打撃練習を終えた中村晃のTシャツは汗でびっしょりと濡れ、体にまとわりついていた。「引退」を表明しても、中村晃にとってまだまだ「戦い」は続いているのだ。引退会見後に2軍戦に出場する選手も珍しい。「弱肉強食」の世界で生きてきた男だけに、最後まで厳しい競争原理の中に身を置いてユニホームを脱ぐ覚悟を決めている。情やノスタルジーで1軍に昇格するつもりはない。プロ19年目の最後の打席は超戦闘モードの1軍舞台で迎えることができるだろうか。試合前ということもあって、最後の1人となって打撃練習を行っていた中村晃の姿を見ている若鷹は誰ひとりいなかった。少しばかりさびしい光景ではあった。
ナイトゲームで行われたファーム・リーグの阪神戦(タマホームスタジアム筑後)。中村晃の出番は会見から約9時間半後だった。2-2の同点で迎えた9回裏1死走者なしの場面。高橋の代打で登場。阪神岡留のカウント1-2からの5球目。144キロの直球をライナーで左前にはじき返した。「いいスイングができました。いい打撃ができたと思います」。追い込まれながらも、逆方向へ中村晃らしい打球を飛ばし、本人も好感触だった。「しっかり(相手投手の)データも見ていましたしね」。好機を演出しながら、試合はドロー。それでも4戦連続で快音を響かせ、調子は上向きだ。ラストシーズンとなった現役生活、そしてその後の人生に向けて「快打」を連発してもらいたいものだ。




