筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏(49)に「動作解析」の視点から制球力をつけるためのアプローチを聞く。

狙ったところに投げられることは、野球の基本であるが、どんな方法で身につけたらいいのだろうか。

川村氏 制球力を上げるときに欠かせないこと。それはボールの離し方です。手元のほんのわずかな差で、内角に投げたものが外角にいってしまう。投手の人さし指、中指は、人間の目の次くらいに鋭敏だといわれています。この感覚を導きだすためには「どこから離れているか」を理解していないと、制球もできません。ボールを正しく握り、親指が離れて、人さし指、中指ではじく。これができれば指先でしっかりコントロールできる。スナップスローが効果的なのですが、これは遊びの中から身に付けることができます。

今では、壁で的当てをする子の姿はもちろん、公園で野球をする姿もなかなか見られなくなった。川村氏は遊びの中から技術を身に付ける方法を提案する。

パラボリックスロー
パラボリックスロー

川村氏 放物線で投げましょう、という練習。「パラボリック(山なり)スロー」です。発想はバスケットボールのフリースロー。上手な選手は距離感が優れています。野球にも当てはまり、制球力とも関係が深いと分かった。方法は簡単です。ゴミ箱にうまく投げられるか。中学生が週2回、30球続けて、1カ月後に調べたら効果が出ていた。ケガなく制球力をつけられます。ボールが上を向く動作をするときに、しっかり指がかかるようにもなる。

投げるものは、バドミントンの羽根、ゴムボール、ソフトボール、テニスボール、ゴルフボールと多種多様なものを用意する。それが交ざった箱を用意し、子どもなら3~5メートル、大人は10メートルくらいから、箱から無作為に手にしたものを、ゴミ箱を目がけて投げる。手に取った瞬間、ボールの重さや大きさを感じ、投げるときの力の入れ加減もとっさに判断して投げることも制球力につながるという。

川村氏 加減をして投げることも難しいことのひとつです。0か100%でしか投げられない選手は、ケガが多い。巨人の菅野選手は走者が出るまでは力を抜き、走者が出たら力を入れる。今も大きなケガがなくプレーができています。

脱力感も重要だという。

スポーツ科学で野球を研究されている筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)
スポーツ科学で野球を研究されている筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)

川村氏 セットポジションに入ったとき、上半身に力が入らず下半身に力がたまるのが理想。それができている選手はその後、足を上げたときに軸足がぶれません。大船渡の佐々木投手がそう。力の入れどころが分かっている。だから「7、8割で投げなさい」という加減ができるのです。うまく脱力ができるのはとても大切なことです。

川村氏は、他にも「並びっこベースボール」や「バックホームゲーム」など、遊びの中から、野球のルールや楽しさを伝える。ケガの防止に加え、野球人口減少に歯止めをかけるために、働きかけている。(つづく)【保坂淑子】

◆川村卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日、北海道江別市生まれ。札幌開成の主将、外野手として88年夏の甲子園出場。筑波大でも主将として活躍した。卒業後、浜頓別高校の教員および野球部監督を経て、00年10月、筑波大硬式野球部監督に就任。現在、筑波大体育系准教授も務める。専門はスポーツ科学で、野球専門の研究者として屈指の存在。