昌平(埼玉)・渡辺翔大内野手(3年)は、メットライフドームでの忘れ物を必ず取りに帰る。県独自大会決勝の最終回、3点ビハインド。1死一、二塁と1発同点の場面で、4番渡辺に回ってきた。高校通算47本塁打を誇る左のスラッガー。打席に入る前、黒坂洋介監督(45)から「お前らで決めてこい」とげきが飛んだ。5番吉野哲平内野手(3年)と打線の核を担ってきた。学校史上初の決勝に進出した勢いのまま、初優勝を決める。最後に4番として大役が回ってきた。

相手の狭山ケ丘守備陣から徹底的に警戒された。初回以外の3打席で、ベンチから伝令が出た。相手二塁手も、外野の緑色の人工芝付近まで下がっていた。それほどのスラッガーだ。1発同点の場面では、なおさら相手の気持ちは入る。3ボール2ストライクで、高めの直球を空振りした。

23日、埼玉大会決勝で敗れた昌平・渡辺(左)は狭山ケ丘ナインと笑顔で健闘をたたえ合う
23日、埼玉大会決勝で敗れた昌平・渡辺(左)は狭山ケ丘ナインと笑顔で健闘をたたえ合う

チームはそのまま2-5で敗戦。準優勝に終わった。以前からプロ志望だった渡辺は「あまりにもふがいない。監督さんとよく話し合いたいと思います」と声を押し殺した。

独自大会の7試合で23打数6安打9打点。打撃が自慢の昌平打線をけん引してきたが、最後の3試合は無安打だった。黒坂監督は「気負いすぎてしまった部分があると思う。技術的には力があるので、上を目指して頑張ってもらいたい」とエールを送った。

シダックス時代に野村克也氏から指導を受けた黒坂監督から「ノムラの教え」も受け継ぎ、カウント別の狙い球や打席の入り方を学んだ。加えて、持ち前の長打力もプロのスカウト陣から「振る力は抜群」と評価を得る。3回戦の白岡戦では、本塁打が出にくいとされている大宮公園球場で、逆方向のスタンドへ運び、長打力を証明した。

小学生の頃から憧れていたプロ野球。「昌平に入って最初の夏が終わって、意識するようになりました」。夢が目標に変わった瞬間だった。毎日素振りを重ね、技術面で足りない部分はないか分析。良かったことや改善点などすべてをノートに書き記した。自然とフォームが変わったときや、結果が出ないときは、状態が良いときのメモを読み返し、感覚を取り戻してきた。「ワタナベノート」でプロ注目打者まで成長した。

高校でのメットライフドームは苦い思い出になったかもしれない。ただ、また戻るチャンスはある。新たなステージで立った時は…。今度こそ、白球をたたき込む。【湯本勝大】