西武平良海馬投手(21)が初の国際舞台に足を踏み入れる。東京オリンピック(五輪)の侍ジャパン24選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる連載「侍の宝刀」。今季得点圏被打率0割で無双状態の剛腕が、不変のクイックモーションで並み居るライバルたちを打ち取る。

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160キロの剛腕イメージを植え付けられた打者にとって、変化球勝負は困難を極める。平良は「僕の真っすぐなんて全然なんで、打たれる気しかしない」。カットボール、スライダー、チェンジアップを多投し、前半戦を終えて防御率0・23。剛速球を見せ球に、どの変化球もカウント球に使えるから、打者からすればこんな厄介な投手はいない。初見での攻略はH難度。一発勝負の五輪で、不可欠なリリーバーになる。

無双状態の今季、40試合目にして連続無失点記録は途絶えたが、得点圏被打率はいまだ0割を誇る。「自分の感覚では先頭打者を8割ぐらいで投げていて、走者が出たらだんだん10割に近づいて。最後の方は100%でいける」。前半戦の23被安打はすべて走者なしと走者一塁の場面のみ。ブルペンでの球数は6、7球で、余力を残しながら本塁打だけは打たれないよう先頭から入り、ピンチを迎えるとスイッチを入れる。

無我夢中に投げてきた昨季までと気持ちの余裕も少し違う。「前はもうブルペンで100%ぐらいでいっていたんですけど、やっぱり疲れますし2連投、3連投していく中でブルペンの球数を少なくした方がいいんじゃないかなと」。今季で高卒プロ4年目。力加減を覚え、シーズンを通してコンスタントに力を発揮。球史を振り返っても類を見ない安定感へとつながっている。

その前提には、走者なしでも投げるクイックモーションがある。「高校生のころから、ずっとクイック。足上げるより、クイックで投げた方がバランスがいいし、自分が投げやすい」。走者が出てもフォームは同じ。変わるのは、力の入れ具合と気持ちのスイッチだけ。「クイックだけ練習すればいいので、すごい楽だったのでクイックにしました」と至ってシンプルな発想が、平良らしい。

1年前の開催であれば、平良海馬の名前はなかったかもしれない。新人王を獲得した昨季に続き無双状態の今季。侍ジャパンのメンバー発表が行われた6月16日の時点で、33試合連続という日本記録更新中。選ばれるべくして選ばれた。1年延期という巡り合わせが呼び込んだ五輪。平良は「やっぱりそれもいろんな運とかもあるので、自分が選ばれた意味を、少し探しながら戦いたいですね」。身長173センチにして体重100キロの大きな体に愛嬌(あいきょう)のある笑顔を浮かべながら、その重みをしっかりと受け止めている。【栗田成芳】