侍ジャパン24人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる連載「侍の宝刀」。ソフトバンク柳田悠岐外野手(32)は常勝軍団の主軸として培った「最強のチーム打撃」で金メダルに貢献する。

18年11月、日米野球でサヨナラ本塁打を放ち、ベンチを指さす柳田
18年11月、日米野球でサヨナラ本塁打を放ち、ベンチを指さす柳田

柳田は言う。「自分ではホームランバッターと思っていない」と。逆方向にも本塁打を打てる打撃が魅力だが、年間最多は18年の36本。まだ本塁打王を取ったことはない。

ただ、普段の打撃練習や試合を見ていて思うのは全打席、本塁打を狙ったらどんな成績を残すのだろうというところだ。レギュラー定着した14年から7年でリーグ優勝4回、日本一6回。ソフトバンクという常勝軍団で戦い続けるからこそ「試合に勝つことが一番」と、やるべきことをやる。走者がいれば、打ち取られても走者を進める。追い込まれれば、長打を捨てても塁に出る。「ホームランが一番面白い」と豪語しながら、やみくもに振り回すことはない。だからあれだけの長打力を持ちながら、生涯打率3割1分9厘、出塁率は4割2分1厘というすさまじい数字が残る。

球界を代表する強打者の1人なのに、驚くほど謙虚だ。偉そうに話すのを見たことがない。五輪代表入りが発表された際には「そんなすごいメンバーに入るのが信じられない。一緒のチームで野球ができるのはすごく楽しみ」と、少年のように喜んだ。人のことを聞けば必ず、心から敬い、自分よりすごいと思う点を挙げる。「みんなすごいし、みんな特徴がある。負けたくないというのは正直ない」。今年の交流戦前に阪神佐藤輝のことを聞かれれば「いや、全然(佐藤輝の方が)すごいと思います。はい。(飛距離とかも)全部」と平然と言った。

柳田が活躍した試合後によく聞くのが「たまたまです」「マグレです」「運が良かった」というコメントだ。最初はクールに、謙遜にしているのかと思った。何年もソフトバンク担当をしてきた今なら少しはわかる。最後に「運」と言えるだけの、準備をしているからだろうと。柳田は相手投手や自身の状態を考慮して、打撃フォームを柔軟に、日々少しずつ変える。「日頃から打撃のことを試行錯誤」し、運以外の要素を極限まで排除する努力の結果が「たまたま」の殊勲打になる。柳田こそ、金メダルを狙う侍の中心にふさわしい。【山本大地】