21日の広島戦に先発した巨人山口俊の投球フォームを見ながら、ふと大投手の姿が頭に浮かんだ。大投手とは今季、ヤンキースから楽天に復帰した田中将大である。投球時に左足、いわゆるフリーフットの上げ方が似ているなと感じた。一体、小谷は何を言ってるんだと思われるかもしれないが、理由を説明する。

19年2月、巨人春季キャンプのブルペンで山口(右)は水野投手コーチにフォームを確認されながら投球練習する
19年2月、巨人春季キャンプのブルペンで山口(右)は水野投手コーチにフォームを確認されながら投球練習する

右投手でいえば、フリーフットを上げる方法は軸足となる右足の裏をしっかりと踏み込み、かかとがついてから上げる。その時、力を入れる順序の感覚はつま先からでも、膝からでもなく、極力足の付け根から上げていくことが大事になる。この感覚で上げていけば、軸足に体重がしっかりと乗りやすくなる。

それをもう1段階応用したのが、巨人の山口と楽天の田中将。フリーフットを体に巻きつけるように上げるが、上半身がフリーフットと同じように入りすぎず、ひねりができている。おそらく自分で身に付けたもので、リズム、バランス、タイミングが取りやすい上げ方なのだろう。本人の感覚、感受性が生み出した方法だと思う。

過去を振り返れば、中日で活躍した山本昌もそのような傾向が見えた。コーチ時代に、体が一呼吸早く突っ込む人にこのフリーフットを試してもらったが、うまくいかなかった。のちに気付いたが、この足の上げ方は足腰が強くなければ軸の移動の時にバランスが崩れるため、マスターしにくいことが分かった。

その山口だが、シーズン途中に巨人に復帰した。彼とは巨人のコーチ時代に関わったが、素材が素晴らしい分、期待も大きくなるので見方も厳しくなる。心技体の「体」で見れば強さや柔軟性、可動域の広さ、スタミナも十分。性格的には優しいが、「気持ちが体を動かす」という言葉が当てはまる男である。

ピッチングでは、剛球と言える真っすぐを投げる上に、あらゆる変化球も投げられる。ゆえに、メジャー移籍前から全てストライクで勝負してもいいと思うくらいだった。日本とは異なる米国の野球文化に触れ、ピッチングスタイルがどう変わっているのか。非常に楽しみだったが、現状を見る限りは2年前と同じようなスタイルである。

4球団で投手コーチを務め、多くの外国人投手に携わったが、意識してボール球を投げる日本の野球に対し、どんどんストライクで勝負する傾向が強かった。メジャーの一流打者相手には難しいかもしれないが、力も技も兼ね備える山口なら、米国式の方が優位に投げられるのではないだろうか。

彼に期待するのは「俺が、俺が」の精神を出して、ゲームを進めていく姿である。どこか、不安を感じながら投げているように見える。現状、フォームにめりはりが少なく、修正するには肩の入れ替えが必要。彼独特のものなのか、ファンを引き込む不思議な力を持っているのだから、自分流のゲーム運びを早く見つけるべきだ。(つづく)

小谷正勝氏(2019年1月撮影)
小谷正勝氏(2019年1月撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。