ロッテの球団職員・谷保恵美さん(56)が17日、ソフトバンク戦(ZOZOマリン)で通算2000試合目の場内アナウンスを務める。野球と自分、故郷十勝と自分。父直政さん(享年87)に届くよう、32年間で培ったいつものアナウンスを、海風に響かせる。

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機内で疲れを取っていても、とかち帯広空港に着陸する前は目を開ける。

「パッチワークのような畑が広がって、高い建物がなくて、空が広くて、雲の流れが見えて。あれを見るだけで落ち着きます」

知人たちにも勧め続けた、ザ・十勝の風景。父を亡くしたこの春。谷保さんは何往復かして、懐かしい空気を吸った。

「十勝の景色を見て、思い出しますよね。特に高校時代のことは本当に鮮明に。2年半の部活動生活ですけど、本当にいろいろと。今回も当時の仲間が、すごく助けてくれたので」

父のお別れ会。井口監督やマリーンズ選手会、チームスタッフからの花が並ぶ中で、野球仲間たちの柔らかな顔も並んでいた。

「もちろん人生なんで、実家に帰ろうかなと思うことも…。最終的にはどうしてもこの仕事がやりたくて出てきたので、それを思い出すと辞めるっていう選択肢にはならなくて」

上京32年目、人生の機微もいろいろ。「まぁなんか、あるじゃないですか、たまには。でもそういう悩みって実はちっちゃくて。地元の友達に会うと、自分は狭いところで悩んでるなっていつも反省して。そういうのを感じさせてくれる友達がいるのはありがたいです。お前は好きな仕事してるんだからいいだろ、って野球部のメンバーにも言われますから。いや、確かにその通りで」。

そうやって、いつの間にか2000試合までやって来た。「その頃までにはちゃんと後輩を育てて一緒に…って思っていたんですけどね。逆に1人だから休めない感が強くなって、気を張って来れたのかな」。

亡き父にとっても、そんな責任感の強い娘は誇りだった。「2000試合は見に行きたいな」と、ずっと家族に言っていた。あとわずかのところでかなわなかった願い。17日は弟の寿彦さん(50)がマリンを訪れる。父の遺影を持って。

放送室からたまに見える満月にほれた。17日は満月の3日後。ちょっとにじむようなフルムーン。十勝より狭いけれど同じように美しい月夜から見守られて、役目を果たす。どんな1日に。「普通の日ですよ」と言い「普通の日です」と繰り返した。まだここから。行き止まりは見えない。歌姫のまっすぐな声が伸びていく。【金子真仁】(この項おわり)