WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

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珍しい場面だった。ソフトバンク甲斐拓也捕手(30)がWBCへの意気込みを問われた時だ。普段は「目標の数字」などを問われても、はっきり言わない。そんな甲斐が、胸の内を隠さずに本音を話したのだ。

19年11月、プレミア12の韓国戦で走者をタッチアウトとする甲斐
19年11月、プレミア12の韓国戦で走者をタッチアウトとする甲斐

「(侍ジャパンの)栗山監督とは何度も話をしました。僕もその思いに応えたい。栗山監督のためなら、体がボロボロになっても戦いたい」

覚悟は本物だった。プライドを捨てた。1月に大分市内で自主トレを公開。プロ経験のないキャッチング専門のコーチを招き入れ、際どいゾーンの投球をストライク判定に見せる捕球、フレーミング技術を磨き上げた。

「プロだからアマチュアの人に教えてもらいたくない、などというプライドは全くないです。もっとうまくなるためです」

フレーミングの他にも、打撃の動作解析専門のコーチも招き入れた。こちらもプロ経験はないが「極めている人や特化している人の話を聞いていたら、本当にすごいですよ」。21年の東京五輪では、扇の要として金メダル獲得に貢献。日本を代表する捕手になっても、慢心はない。「ボロボロになっても」と話す男の覚悟が、垣間見えた。

甲斐の主な国際大会成績
甲斐の主な国際大会成績

最高のお手本も後押しするはずだ。現在行われている宮崎春季キャンプでは、城島健司球団会長付特別アドバイザー(46)も足を運んでいる。城島氏は09年のWBC第2回大会で、当時の2連覇に貢献した。「一発勝負の野球。どこが強い、弱いではなく、何かが起こるのが野球だから、と。そういった話をできたのはうれしいし、アドバイスを聞いて間違いなく自分のものになって生きてくる」。一方、城島氏は「もうちょっとしたら、拓也は奥歯をガタガタさせて泣いてると思いますよ」と笑い飛ばした。重圧にのまれそうな後輩を案じたが、「成長して帰ってきて、話を聞きたいですよね」と、活躍を切に願っている。

今オフのソフトバンクは先発候補が10人以上いる。WBCとともに、チーム投手陣との調整も並行する多忙な日々だ。ハードな日程にも「野球選手、ですから」とケロリ。扇の要は、やはり頼もしい。【只松憲】