WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

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ポジティブに運命をたぐり寄せる。

侍ジャパン中野拓夢内野手(26)は首脳陣から複数のミッションを与えられている。二遊間守備の両立、代走などスピードで流れを変えるプレー、バントや進塁打などの小技…。状態次第では遊撃源田、二塁牧、山田と多士済々のメンバーの中でスタメンに躍り出る可能性もゼロではない。

宮崎強化合宿では打撃、走塁はもちろん、遊撃と二塁守備に入れ替わりで入る日々。常人では体がいくつあっても足りなさそうな忙しさだが、弱音を吐くこともマイナス思考に陥ることもない。

2月26日、二ゴロをさばく中野
2月26日、二ゴロをさばく中野

「どのポジションを守るにしろ、自分自身もスタートで出たい気持ちはある。本当にやらないといけない、という気持ちだけ。セカンドもショートも両方やって、スピードや小技にも期待してもらっていると思うので、一発で決められるような準備をしていきたい」

もともと運には頼らないタイプ。「あまりそういうのには行かない」と今年も初詣には行かなかった。「占いとかもあまり信じないタイプなんです」。神頼みは「時には必要だと思う。だけど、そこは自分で(運命を)変えられるか分からないけど、自分でいい方向に持っていきたいと思いますね」。171センチの体を目いっぱい使ったプレーで道を切り開いてきたからこそ、そう言える。

誰よりも自分を信じる。そんなハートの強さは短期決戦向きだ。プロ1年目の21年4月10日。DeNA戦にプロ初スタメン出場すると、プロ初打点&初盗塁をマーク。下肢コンディション不良で2軍キャンプスタートとなった昨季も、開幕戦でしっかりスタメンに戻り、猛打賞で周囲を安心させている。どんな状況でも前向きに準備を怠らず、必要な場面に「ピーク」を合わせてきた。

中野の22年11月強化試合成績
中野の22年11月強化試合成績

侍ジャパンの首脳陣は選手たちに競争を促し、スタメン起用の条件の1つに「ピーキング」を挙げている。「ピーキング」とは、大会へ向けてコンディションを最高の状態にもっていくように調整すること。白井ヘッドコーチは「ピーキングをうまく合わせられた選手を使っていく。そこに合わせていくのはけっこう難しいこと。レベルの高い競争をすることで、そのピークの山も高くなる」と明言している。

中野も「スタートダッシュは苦手とも感じてない。技術どうこうより、気持ちの面でしっかり準備していければ、いい形で入ることができると思う」と言った。ノリノリ状態の26歳が日本のラッキーボーイになれば…。大谷、村上らが並ぶ重量打線にアクセントをもたらせてくれるはずだ。【中野椋】