WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

オリックス田口コーチ(左)に笑顔であいさつをするヌートバー(撮影・上田博志)
オリックス田口コーチ(左)に笑顔であいさつをするヌートバー(撮影・上田博志)

米国人で初めて日本代表となったラーズ・ヌートバー外野手(25=カージナルス)は、和の心も持った国際侍だ。母久美子さんが埼玉県出身の日本人。ミドルネームの「タツジ」は祖父の榎田達治さんから名付けられた。父チャーリーさんは日本にホームステイして勉強し、東洋水産に勤めた経験もある。幼少期から家の中では靴を脱ぎ、朝はご飯にみそ汁、納豆と、ヌートバー家の生活は和のテイストにあふれていた。

日米以外にも、世界と関係している。ヌートバー(Nootbaar)という名字はオランダ系だが、久美子さんは「イギリスが濃く入っているのかな。名前で(オランダ系と)判断されてしまいますが、あとはドイツもフランスもいろんなところが入っている」。名前のラーズ(Lars)は父方の先祖が由来で、20ほどの候補から選ばれた。「北欧系の名前だと聞いた覚えがある」(久美子さん)という、スカンディナビア半島周辺では一般的な男性名だ。

日本選手に多い右投げ左打ちだが、イチロー、松井秀喜らに影響を受けたわけではない。「1歳ぐらいから何か持たせると全部左だった。ホッケーもゴルフクラブも、スティックを持つものはすべて。無理に左にしたわけではなく、自然に右で投げて左打ちでした」と母。スティック系以外ではサッカー、ローラースケート、バスケットボール、ジュニアライフガードも経験し、高校時代は野球以外にアメリカンフットボールでもQBとしてMVPを受賞する活躍。南カリフォルニア大では、野球部とアメフト部で取り合いが起こったほどだった。

来日後は「たっちゃん」のニックネームがつけられるなど、すぐにチームになじんだ。コショウをひくまねの「ペッパーミル・パフォーマンス」は大谷翔平も行い、一気に知られた。

「グラインディング」は「すりつぶす」以外に「粘り強く」の意味があり、昨季途中からカージナルス内に流行させた。遠征中のある日、ノックされてホテルの部屋のドアを開けると、大きなミルが置いてあった。チームメートの誰かがレストランからもらい受けたもの。球場に持って行き、パフォーマンスを始めたという。母が「お調子者というかひょうきん者というか、そういうところは大いにあると思います。ムードメーカーというか」という性格。盛り上げ役にぴったりだ。

06年に高校日本代表のボールボーイを務めた。17年後に日の丸をつけ「ずっと楽しみにしていた。10歳から代表入りしたいという夢をかなえたかった。母方の家族の誇りを背負っていきたい」と目を輝かせた。6日の強化試合阪神戦では、来日初戦で適時打含む2安打の活躍。早くも打線に欠かせない存在となった。目標は「優勝の1択」と準決勝での米国撃破から世界の頂点を狙う。【斎藤直樹】