全国高校野球選手権大会が100回大会を迎える2018年夏までの長期連載「野球の国から 高校野球編」。番外編として、ベースボールライターの小関順二(65=写真)に登場してもらいます。ドラフト会議テレビ中継の解説などで知られる小関に、高校野球のこれまでと未来を、3回にわたって語ってもらいました。まずは、ベストナインです。(敬称略)

小関順二氏
小関順二氏

 甲子園ベストナインを聞くと、小関は迷わず言った。「高校野球は2つの時代に分けられると考えています。松坂前と、松坂以後です」。1998年。春夏の甲子園で「平成の怪物」の名をほしいままにし、横浜高校を初の春夏連覇に導いた。高校野球の見方に変化を及ぼすほど「あの衝撃はすごかった」と話す。松坂前のベストナインは以下の通り。大きな特徴として「前」は学校の意識が強い。

 小関 春夏連覇の箕島は入れないわけにはいかない。では誰かと考えると、捕手の嶋田宗彦なんです。79年夏、延長18回の星稜対箕島。延長12回に同点本塁打ですよ。「嶋田って何てヤツだ」と思いましたよ。次点が江の川・谷繁。広島商も外せない。作新学院・江川を攻略した広商野球を代表する業師が金光興二。

 単純な成績ではない。あくまで甲子園で、どれだけ魅力的だったかが判断基準だ。

 小関 投手・江川は文句なし。僕が3歳年上なんです。高校を卒業し、大学生活が楽しかったし、一時期野球から離れていたんです。そんな中、完全試合とかノーヒットノーランとか、江川の話題だけすごかった。離れかけていた高校野球に、引き戻してくれたのが江川さん。桑田? 江川の方がはるかにね。次点は太田幸司です。同年代でね。私たちのヒーローですよ。

 桑田は外れても、もちろんPL学園は必要だ。一塁・清原は文句なし。次点は享栄・藤王康晴という。三塁は星稜の松井秀喜。

 小関 5連続敬遠は偉業です。次点は原辰徳。原は松井がいたので選べませんでしたが、東海大相模も大事。そこで、外野で津末英明です。津末って迫力ありましたよ。高校からプロに行けば良かったのに。池田は水野雄仁。2年時に荒木大輔から本塁打。やまびこ打線の中軸。外野はもう1人、浪華商の坂崎一彦。55年の選抜に優勝。巨人入りして、天覧試合で長嶋さんと本塁打を打っている。僕の書いた小説の主人公に「坂崎」と付けたくらい、少年時代のヒーローです。

 遊撃は松山商の樋野和寿。69年夏、太田擁する青森・三沢との決勝は延長18回引き分け再試合となった。伝説的な試合での伝説的な守備を挙げた。延長15回1死満塁、エース井上のグラブをはじいたゴロを前進守備の樋野が、素早く拾って本塁封殺した。「樋野は再試合では太田から2ランも打ってる。大学、社会人でも活躍された。次点はPL学園・福留孝介だね」。

 学校を軸に9人を選んだ。名前の連なる紙を見て、小関は「いいベストナインだな」と満足そうに言った。松坂以後は、一転して個人が輝く。(つづく)

【金子航】

小関順二氏が選ぶ松坂前の甲子園ベストナイン
小関順二氏が選ぶ松坂前の甲子園ベストナイン