第90回の記念大会は大阪桐蔭の春連覇で幕を閉じた。複数投手制やバント不要の攻撃的な野球がトピックスになった。そしてもう1つ。実現しなかったが、タイブレーク制の導入が高校野球史に刻まれた。この節目の大会が、改革路線の分岐点になる可能性がある。

 選手の健康管理が同制度の採用理由にあるが、投手の投球過多の抑止力になるわけではない。タイブレーク制は延長13回から行われるが、1人の投手は15回まで投げられるため、負担軽減にはならない。決勝戦以外の引き分け再試合がなくなるという意味において、有効なだけだ。今後、投球制限の議論は避けられないだろう。竹中雅彦事務局長は「タイブレークの導入まで3年かかった。投球制限の導入はそれ以上に難しい問題だ」と前置きした上で、こう続ける。「大会運営で障害予防を打ち出している。好きなスポーツで故障するのは悲劇です。できれば、出したくない」と検討課題であることを認めた。

 各都道府県の加盟校にアンケートした際に、球数制限に反対の意見が圧倒的に多いという。「選手層の厚い私学が有利になる」という声がある。同事務局長は「ファウルで粘れば、投手をつぶせる。あるとすれば、球数よりも回数だろう」と話す。現行の1試合15回を12回まで、というように回数制限の方が現実味のあるプランだ。導入された場合は、「ベンチ入りメンバーを増やすべきではないか」という指導者もいる。

 甲子園の過密日程も議論すべき問題だ。阪神が公式戦で使用するため、日程の拡大は厳しい。仮に休養日を1日増やす場合は、大会前に行われる甲子園練習の廃止を検討せざるを得ない。ただベンチ外の選手が甲子園の土を踏める場でもある。教育的見地から廃止に否定的な意見も多い。一方で野球人口の減少は大きな問題になりつつある。竹中事務局長は「大事に子どもを育てないといけない。いろんな魅力あるスポーツの中から野球を選んでくれたことに、指導者も感謝しないと」と強い危機感を持ち、障害予防を重要視する。

 今回出場した英明・香川智彦監督(60)は木製バットへの回帰を訴え、明徳義塾・馬淵史郎監督(62)は、どの守備位置にも適応可能なDH制度の導入を提案する。改革の議論が活発化するのは悪いことではない。良き伝統は残し、変えるべきは変える。球児にとって、最善の環境をいかに整えるかが最も大切だ。今夏に第100回大会の重みを感じながら、高校野球の行方を見つめたい。【田口真一郎】(おわり)