ナイスピッチングだった。8回途中交代するまで1失点の内容。オリックス星野投手コーチに「我々と一緒に、ここ(ファーム)にいてもらっては困るピッチャーなんですよ」と本人を目の前にして、こう言わせていたのはオリックス山田修義投手(25=184センチ、85キロ、左投げ左打ち)。今季8年目の左腕。昨シーズン7月に1軍で待望のプロ入り初勝利を挙げ、今年はローテーション入りの期待が大きかったがゆえの談話である。どちらかといえば“遅咲きの桜”かな、とも思えるが25歳はまだまだ若手。将来を嘱望されて北陸の名門・敦賀気比からドラフト3位で入団。甲子園の経験もある。3年生の夏、福井県大会では同大会新記録の49奪三振。福井のドクターKの称号がついたほどの投手。

 ゲームに集中する。テンポがいい。ストレートには力がある。変化球の切れも悪くない。8月16日、鳴尾浜球場での阪神-オリックス戦。先発山田のピッチングを見た印象である。なかなかいいピッチャーだ。そこで今シーズンの成績(ウエスタン)に目を通すと、不思議な結果が…。防御率は2.41という素晴らしい結果を残しているにもかかわらず、17試合に登板して3勝7敗と大きく負け越している。ちなみに昨季の1軍の試合でも2勝7敗。どこかに勝てない理由でもあるのだろうか。もう1度今季のウエスタン成績に戻ってみる。敗れた7敗のうち、5試合が完封負け。なぜか援護がないから負け数が多くなる。勝負の世界に生きていく以上、絶対に解消しなくてはならないことだ。

 登板日と打線との巡り合わせともいわれるが、私はそれだけではないと思っている。時々評論家が説明しているが、野手は守っている時間が長いと、攻撃のリズムが狂うというか、守備に気をとられてバッティングに集中できなくなる。だから、点が取れない。援護がなくなる。問題点はここにある。この日のピッチング内容。7回2/3。投球数124。被安打4。奪三振9。四球3。失点、自責点1。文句なし。ただ、投球数の124は少々多め。許せる範囲内だと思うが、チーム内の山田に対するイメージなのか-。この試合の援護も1点のみだった。

 現状を解消するための答えが見えだした。星野コーチに今後の山田に望むことと、現在のテーマと合わせてみると…。

 ちょうど星野コーチと山田、両人が何やら話しをしているところに遭遇した。同コーチとは久しぶりだ。現役時代は珍しく遅い球を駆使して相手を手玉に取ったピッチャー。通算176勝をマーク。2000年FA権を行使して阪神へ移籍。当時私も、広報部長として在籍していたこともあって、話は終始ジョーク交じりで進んだ。「今日は球に力があったのでは…」の問いに同コーチ「いや、たいした球はありませんでしたが、そうか。“今日は調子が良かった”と書いていただかないと、書いていただく日がなくなるかなあ。球に力があった。とも書いてやってください」。本人を前に笑いながらの話だったが、表情には満足感が漂っていた。そして、こう付け加えた。「もっと強気にバッターにどんどんむかっていくことですね」と-。山田には大事な言葉だ。

 山田は「今日はまあまあ良かったと思います。ストレートは走っていたし、変化球もわりといいところできまってくれました。でも、この世界、やっぱり1軍で勝ってなんぼですから。ファームですごいピッチングをしても…。だけど、ファームでいい結果を出しておかないと1軍には上がれませんから」。残念ながらこの試合も好投しながら勝ち星につながらなかった。現在のテーマを聞いてみた。「この前1軍で投げたときはあまり良くなかったので、今日はストライクゾーンで勝負するように心掛けて投げました」。このテーマと星野コーチの大事な言葉をかみ合わせると投球数の激減にたどりつく。簡単なようでなかなかむずかしい。試合が長引く悪循環は、慎重になりすぎてコースを狙った球が少しずつ外れるところから始まる。当然、投球数が多くなる。おのずと守っている時間が長くなる。さて山田-。どう取り組むか。次回を楽しみにしておこう。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)