プロの壁-。誰が、どう見ても重傷だ。絶不調、苦境にあえぐのは阪神江越大賀外野手(24)打率は現在1割台。それどころか一時は1割台にみたない時期があったほど。信じられないのは、プロ野球界にあって身体能力は上位クラス。パワーあり、走力あり、肩もよし。おまけに体そのものも強いから不思議だ。今季3年目、本来ならすでに外野の一角を自分のものにしていてもおかしくない存在。期待は大きい。ファームを預かる掛布監督は連日マンツーマンで指導にあたっている。

 毎試合スタメンで起用している。最近では1打席でも打順が多くまわように“1番”で出場するケースが多い。これも親心というか、立ち直るきっかけのチャンスを与えるためだ。江越という素材を目の当たりにして私も、いちOBとして期待を寄せている一人。どこが、どう狂っているか1打席、1打席チェックしているが、見た目では全くわからない。同監督に聞いてみた。

 「パワーのある選手ですから、上体だけでスイングしていた。やはり下半身が伴わないとね」だった。確かにバットを基本のレベルに振るためには、上半身と下半身のバランスがうまくとれていないと無理。スイングが波打ってしまうし、これでは打てない。

 今、江越のバッティングで気になるのが空振りが多いこと。特に目立つのがボール球に手を出してバットが空を切ることだ。ストライクとボールの見極めもプロの壁を打ち破る材料になると思うが、見極めるのは選手個々の感覚である。この部分は技術的にも指導できるものではない。同監督も「むずかしいですね。あまりにそれを主張するとバッティングそのものが消極的になってしまう。意識しすぎてバットが出なくなってしまっては怖いし、その点は、その人の感覚ですから教えられるものではないと思います」という。そのとおりである。打開策といえば、自分で考え、自分で体験して自分のものにする以外ない。要するに生半可なことではプロの壁は破れない。

 いろいろな角度からの体験をし、努力を積み重ねるしかない。連日の練習、試合。いい方向にむかうヒントを模索しながらのバッティング。バットを構えた時のトップの位置。腕、肘、手首を含めたスイングの軌道。肩の回転。上、下半身のバランス。腰、膝の使い方のチェック。何球も何球も打ち続けるが、なかなかヒントは得られない。1日や2日でつかめるものでもないが、時間がたてばたつほど悩み、ストレスがたまる。この厳しい精神状態の中、さらに練習を繰り返していると、ある日突然「これだ」というヒントに出くわす。このヒントにはいつ出会えるかわからないし、ここにたどり着くまでの近道もない「だいぶわかってきました。」は江越の話だが進歩のほどは…。

 掛布-江越のコンビは試合が終了し、ミーティングが終わると即できる。鳴尾浜球場ではロッカーで、またはグラウンドで1対1の練習が始まる。「あたり前の練習ではマンネリになるので、何か興味を持てる方法をと思って」と同監督が考案したのが、オリックスのT-岡田が取り入れていた“チューブスイング”だ。「腕の振りがしなやかになるし、バットをレベルに振れる」ことから始めたゴムを利用した練習方法。「自分でも少しはわかってきたみたいですね。この前も、前の打席での失敗を修正したら、次の打席でヒットを打てた。とか言っていましたから進歩はしています。問題はこれからです。今の選手は、ひとつの事を長くやり続けることができませんから」不安をほのめかしたが、本人が壁にぶつかったことを意識できたのも進歩のひとつ。確かに前進している。

 果たして、江越がヒントにたどり着くのはいつか。掛布監督が現在のポストに就任して、若手の指導で痛感したのが我慢と根気だという。まさしく今、その時を迎えた。両者の根くらべを注目したい。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)