元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。53回目は「いい監督、悪い監督」です。

     ◇   ◇    ◇

 サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会まであと2カ月と迫り、日本代表でハリル氏から西野氏への監督交代が行われた。

 いい監督、悪い監督とは一体どこがどう違うのか考えてみた。

 選手目線で言えば、良い監督は、自分を試合で使ってくれる。意見を聞いてくれる人。いっぽう試合で起用してくれず、意見も聞いてくれないのは悪い監督となるだろう。

 選手以外のファン目線で言えば、結果を出す人がいい監督、結果を出さないのは悪い監督となるのではないだろうか。監督には勝利を託している。チームさえ勝てば文句は絶対に出ない。文句つけるところがない。

 勝利している場合、起用した選手も結果を残していると判断されるケースが多く、チーム内の雰囲気も、当然いい。

 逆に結果が悪いと内外野から批判の矢が飛んでくる。良い監督であるためには、試合内容は関係ない。とにかく勝てばいい。負けて評価が上がることはない。

 ただ、選手にとっては監督交代は一大事となる。絶対的なレギュラーを除き、当落線上の選手にとって、使われる選手とそうでない選手が入れ変わる可能性があるからだ。どの監督にもプレースタイルには少なからず好みがあるためだ。

 野球でも似たようなことが起こるが、球団の利益と選手の利益が必ずしも一致するとは限らない。リーグ優勝しても、選手が成績を残さなければクビになる。逆にチームが最下位に沈んでも、選手個人の成績が良ければ年俸は上がるといったケースが起こり得る。

 監督に好かれるのも本人の能力でサラリーマン社会にも、思い当たる人が社内に存在するかと思う。レギュラーを「1流」とすれば、好かれて試合に起用される選手は「1・5流」。四捨五入すれば2流となるのだが、監督変われば使われない可能性があるため「2流」になってしまう。だからこそ、四捨五入しても2流の枠に下げられず、常に1流の枠に入るほどの実力がほしい。

 現役時代、私にとって良い監督だったのはボビー・バレンタイン。ロッテで2004年に2度目の指揮を執ったボビーは、お互い腹の底から意見をぶつけあったし、私の意見もよく聞いてくれた。また同年、開幕して1カ月すぎたころ、蓄積疲労による半月板損傷で手術を受けた。術後1カ月で復帰したがドクターからは「1試合出て1試合休みでないと膝がシーズンもたない」と告げられた。ボビーは、そんな出場条件を受け入れてくれた。私は1週間に1度30ミリリットルの水を抜きながらシーズン戦ったことを記憶している。同年は61試合出場に終わったが、前年の2003年に打率3割超の成績を残し、2004年は勝負と思っていただけにボビーの配慮はありがたく、61試合の積み上げが翌2005年の日本一につながったと思っている。2006年に正捕手で出場したWBCでも、ボビーはいいアドバイスをくれた。とても感謝している。

 サラリーマンの組織社会でも、結果を出す上司が重宝される。上司に嫌われている部下が意見した場合、批判と捉えられるが、逆に好かれている部下の意見は建設的で「カイゼン」に貢献したと高評価されることがあるから不思議なものだ。

 私も現役引退後、仕事先で1番聞かれるのは「1番良かったのはどの監督?」という質問。逆に聞いてみたい。みなさんにとって、いい上司とはどんな人だろうか。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。