初冬と言うより晩秋という感じの雰囲気が続く日々、自宅近くを散歩していると自転車に乗った子ども2人が追い抜いていきました。それぞれ頭には野球帽。1人は「N・Y」(ニューヨーク・ヤンキース)、もう1人は「H・T」(阪神タイガース)。それを見て「ええなあ」と思いながら、先日、阪神・村上頌樹投手と交わした会話を思い出していました。

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11月下旬、恒例の阪神球団ゴルフコンペが兵庫県内で開催されました。監督、選手、フロントはもちろん、取引業者から我々、メディア関係者まで約200人の大きなもの。コロナ禍もあって今回が4年ぶりの開催でした。

恐縮ながらこちらも参加させてもらい、スタート前に練習場で球を打っていたときのこと。若手選手たちがやいやい言いながら、やってきました。若手の中にはほとんどゴルフ経験がない人もおり、初ラウンドという存在も少なくない。

そんな中、こちらも緊張気味にやってきたのが村上投手でした。「こんちわ!」と元気よくあいさつしてくれる、その頭には茶色のヤンキース帽が乗っていました。

言うまでもないことですがNYの帽子は男女を問わない1つのファッション。若者中心ですが中高年もかぶりますし、恥ずかしながら、こちらも白地にブルーのモノを持っています。しかし、そこで思わず言ってしまった。

「あれ。知らんうちにヤンキースに移籍したの?」

「はあ?」という顔をした村上。「いえいえ。とんでもない」と続け「このおっさん、何を言うとるんや」という表情をしていました。自分でも「いらんことを言うてしもたか」と思いましたが、あらためて自分が口走ったことの意味を考えてみたのです。

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いま、オリックスのエース・山本由伸投手がポスティング・システムで大リーグ入りを模索しています。そして村上がこの由伸と日本シリーズで投げ合い、1勝1敗となったのは虎党ならずとも野球ファンなら知っていることでしょう。

まさに彗星(すいせい)のごとくファームから登場し、今季の阪神日本一の原動力となり、MVPにまで輝いた村上。いま、大リーグに行ってもそれなりに活躍できる力はあると思います。日本プロ野球のレベル、特に投手のそれが世界トップレベルなのはよく言われることです。

そこで聞きたくなります。ズバリ、村上にメジャー志向はあるのか。

村上 いやあ。ボクは子どものときからずっと阪神ファンだったんで。その阪神に入れて、こうやって働けて評価してもらったことをすごくありがたいと思ってますし。そんなことは考えたこともないですね。

虎党にはホッとする話でしょう。でも日米レジェンドのイチロー氏も当初は大リーグは意識していませんでした。オリックスで異次元の活躍を続けるうちに、メジャー志向が湧いてきたのです。村上のエースになって活躍が続けば…。

村上 まあ、それはそうですね。将来のことはわかりませんけど。でもいまはまったくないですね。来季、しっかりやることだけです。

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ここで冒頭の話に戻ります。「村上がヤンキースの帽子をかぶるのはどうなのか」ということです。

単なるファッション、いいに決まっているじゃないかという声が聞こえてきそうですが、では由伸が、あるいは大谷翔平選手が、いま、ヤンキースなど特定の大リーグ球団のキャップをかぶるでしょうか。

高卒ルーキーなど1軍はまだまだという存在の選手がそれをかぶっていても何も気に留めません。

しかし村上は違う。すでに「かぶってはいけない」領域に入りつつあるのではないか。そう思ってしまうのです。そんな雑談をしていると彼は真面目な表情でこう言いました。

村上 そうですね。そういう気持ちでやらなあかんのかもしれませんね。もう、かぶらんときます。

ヤンキースも阪神も、同じプロ野球のチーム。世界的な知名度などは違うでしょうし、年俸の規模も桁違いです。大谷の契約に関する巨額な情報に接すれば、なんだか妙な気分になったりもします。それでも、いや、だからこそ、阪神の、日本プロ野球の意地を感じたい。そう思います。

村上には来季以降も阪神勝利のために活躍してほしいし、それこそメジャーから本気で獲得を狙われるような存在に成長してほしい。今回の会話でもあらためて感じた素朴なナイスガイに対して、そんな気持ちでいっぱいなのです。【編集委員・高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「高原のねごと」)

タイガース杯ゴルフコンペ 1番、ナイスショットに笑顔を見せる村上頌樹(2023年11月22日撮影)
タイガース杯ゴルフコンペ 1番、ナイスショットに笑顔を見せる村上頌樹(2023年11月22日撮影)