1カ月に及ぶキャンプはいよいよ打ち上げ。成果を試すオープン戦がスタートした。

2月25日の土曜日。相手はヤクルトだった。オープン戦初戦にはもってこいの相手だった。リーグ連覇を果たしているチームだ。岡田が考える2023年の最大のライバルは巨人ではなく、このヤクルト。力試しには絶好の機会だった。そこで早々と結果が出た。伸び盛りの若手が躍動し、守りも走塁も、満足できる内容に、岡田は相好を崩した。

この試合で感じたこと。それは岡田の覚悟である。そんな覚悟がどこで見えたのか? それが起用法にあった。4番大山、5番佐藤輝。この並びは当たり前のことだが、結局、この2人を最後まで替えることはなかった。すべて打席に立たせ、すべて守りにつかせた。

2人とも発展途上の選手だが、普通、4番、5番を打つ打者をいきなりフルイニング出場させることは珍しい。2打席くらいで交代。他に試したい選手を起用するのが、通例であるが、岡田はそうしなかった。

まだまだそこまでの選手ではない。そこまでの選手にするために、特別には扱わない。とにかく経験を積ませて「オレが本物に育てる」といった覚悟が、オープン戦のスタートから見えたのだ。

バッターを大きく育てる。今年は水口と今岡の2人の打撃コーチに任すが、最終的には岡田が手を下す。そういう手法で過去、多くの選手に岡田は接してきた。

2軍の監督時代、これと見込んだのが浜中と関本だった。浜中にはスケールの大きな打者に育てると、2軍戦では4番を打たせた。関本にはしぶとさやうまさを求めて、それにふさわしい起用法を続けた。

彼らが1軍に上がった後に、現れたのが桜井だった。岡田は浜中と同じように、桜井を4番に据え、大きなスケールを彼に求めた。

その後、1軍監督になってからは、金本という絶対的な4番がいたから苦労はなかったが、オリックスに移ってからは、再び、育てることに苦心した。そこで見いだしたのがT-岡田であった。伸び悩んでいた大砲候補に、岡田はタイミングの取り方から指導した。そこでたどり着いたノーステップ打法。これによってブレがなくなり、ミートさえすれば打球は飛んでいく。T-岡田の特性を生かした打法変更は、ホームラン王を生み出したのである。

今回、大山と佐藤輝を必ず大きく育てるという気持ちを固めている。もちろんチームの勝敗に直結する2人だから、当たり前は当たり前。それよりも、しっかり芯が通ったバッターになるように、当分は甘やかしたり、特別に扱ったりはしない。

チームの主軸となれば、ファンサービスや顔見せ的な要素で、オープン戦では途中交代は見慣れた光景だが、岡田はこれを嫌う。監督就任に際し、最初に明かしたのが4番大山、5番佐藤輝の構想であり、一塁、三塁固定を明言。それも守備固めや代走も出さずに、フル出場の4、5番。これこそがファンサービスと決めている。

「どんなバッティングをするのか。どんな守りなのか。ファンはワクワクして球場に来てくれる。それに応えないといけないやろ。それにはずっと出ることよ」。軟弱なクリーンアップはいらない。堂々と戦える男たちにする。これが岡田の覚悟といっていい。

この2人に、森下という魅力十分のルーキーが力のほどを示してきた。このままいけば、ドラフト1位トリオで、和製クリーンアップの可能性は十分だ。他の球団を見渡してみると、ほとんどが外国人をこのポジションに据えている。ノイジーやミエセスを押しのけ、森下を岡田が重用すれば、阪神の歴史の中でも極めて珍しい和製3、4、5番が誕生する。もちろん岡田は乗り気十分だろう。

強くて、タフで、故障しないで出続ける。岡田はこれまで投手陣でJFKを構築したが、今回は打線でのMOSだ。外国人抜きのクリーンアップ、これでまた革命を起こしますか…。【内匠宏幸】 (敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)

日本ハム対阪神 ベンチで話す杉山オーナー(右)と岡田監督(撮影・加藤哉)
日本ハム対阪神 ベンチで話す杉山オーナー(右)と岡田監督(撮影・加藤哉)