WBCの余韻は残る。世界一になってから数日。「すごいゲームばっかりやったし、ホンマ、たいしたものよ」。岡田彰布もずっとテレビにくぎ付けになっていた。

やはり大谷翔平に行き着く。岡田は改めて次元の違いとした。「何をやっても規格外。こんな選手、もう現れないやろな。とにかくすごい。これしかないわ。すごいわ」。大谷への称賛は止まることはなかった。

子供たちのあこがれになる。「大谷選手のようになりたい」と目標になる。これはとてもいいことだが、いまのプロ野球選手がそれを口にすると、少し違和感を感じると言う。

「そら大谷みたいになれたら、いうことないし、目指すのも結構。しかし、先にいったように次元が違うから。だからマネしても、なあ。決してマネできる選手ではないからね」。岡田は率直な気持ちを表した。

まずは自分の力、自分の役割、自分の持ち味を知ること。岡田はそれを言いたかった。それを自己理解し、まい進すれば、十分にプロで生きていける。大谷を目指しながら、目の前の仕事を着実にこなす。そういう選手が多くいることが、チームの力になる。この基本的な考えを岡田は変えない。

3・26、オープン戦最終戦。阪神はオリックスに敗れ、リハーサルを終えた。この試合が3・31開幕の先発メンバーになるのは間違いない。本番をしっかりと見据えた試合だったが、岡田はガッカリした場面があったと思う。それは2点を追う7回表。この回先頭の森下が死球で出て、続く梅野がヒット。これで無死一、二塁。打順は8番小幡…。もちろんシーズン想定の作戦に出る。まずは同点を狙う。だから小幡に送りバントのサインを出す。

リハーサルの最後で遊撃の先発は小幡だった。木浪ではなく小幡。打力は木浪が上回っているが、岡田は小幡を選択した。「ショート? 極端な言い方すれば、打たんでもエエんよ。それより守りやんか」。だから8番の打順。打率が2割4、5分でも構わない。守りさえ固ければ、先発で起用する。そこまで岡田は割り切り、腹をくくっている。

ただし、いくら打たなくてもいい、としても、必要最低限の仕事をこなしてもらわなければ、岡田の割り切りも揺らぐ。先に書いた小幡の送りバントの場面。打球はフライになって走者を送れなかった。犠牲バントは下位を打つバッターにとって重要な役目。それを失敗する。このミス、当然、今後に引き継がれる。こういう状況でバントできない…とイメージが残り、ベンチにも迷いが出てくる。

オープン戦終盤、岡田はチームの中の危機感の薄さを指摘。スポーツ紙を通じて、選手たちに警鐘を鳴らした。その裏で「オープン戦とシーズンは違うから。そこまで気にしてない。いうてもオープン戦ということやから」と、にやけながら口にしている。

大山や佐藤輝、そして近本などに関してはシーズンに入れば変わる! という手ごたえを持っているのだ。マスコミ用と、胸にある逆の思い。それがないと、やってられないけど、最後の最後に出た送りバント失敗は、心をなえさせるものだったに違いない。

高望みはしない。岡田は常にマイナスからのスタートで監督業を進めてきた。常に最悪の状態を想定し、そこから積み上げることに注力してきた。例えば3番起用を決めている新外国人、ノイジーは「甲子園で30本以上のホームランは期待してはアカン。それは割り切っているし、広角に打てるバッティングを続けてくれればいいわけ」。自分のタイプを早く知り、それに沿ったプレーをしてくれたら十分。とにかく「役割」さえこなしてくれればと願っている。

そういう意味から、小幡のバントミスは論外になってくる。開幕ショートをまず任す方針を立てたのは、小幡なら役割を果たせるという最低限の期待があるからだった。

これで3・31の遊撃のポジションはわからなくなった? いや、これで代える岡田ではない。8番小幡でいくに違いない。だからこそ、小幡には自分の役割を再認識してもらいたい。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)

  

オリックス対阪神 7回表阪神無死一、二塁、小幡は送りバントに失敗する(撮影・上田博志)
オリックス対阪神 7回表阪神無死一、二塁、小幡は送りバントに失敗する(撮影・上田博志)
オリックス対阪神 7回表阪神無死一、二塁、小幡は送りバントに失敗する(撮影・上田博志)
オリックス対阪神 7回表阪神無死一、二塁、小幡は送りバントに失敗する(撮影・上田博志)