1985年、阪神が日本一になった日本シリーズ。西武との頂上決戦は、すべての試合で指名打者制(DH制)が採用されている。そこで阪神は2番に弘田をDHで起用。6試合をこの打線で臨み、4勝2敗で頂点に立った。

翌年の1986年。この年はDH制はなし。広島と西武の激突は1試合目が引き分けで8試合を戦う激闘となった。広島が引き分けから3連勝。当時、赤ヘル番だった僕は、日本一紙面のため、すっかりその気になっていたら第5戦。延長に入り、最後は西武の投手、工藤公康にサヨナラ安打を浴びて敗戦。そこから流れが変わり、カープ3連勝のあと、西武が4連勝。投手のヒット1本で激流が起こり、工藤は当然のようにシリーズMVPになった。

これでわかるように、隔年で採用された日本シリーズのDH制だったが、1987年からは現在の方式であるパの本拠ならDH制で、セの本拠ならなし。このシステムがいまも続いていることになる。

さて今年のシリーズ。まさかの展開になっている。強固な投手力を誇る2チームだけに、多くの評論家はロースコア対決と予想していたが1戦目、2戦目とも8-0のスコアで星を分け合った。

まずはDH制があった2試合が終わり、次はDH制のない甲子園で3試合。ここから、どういう流れになるか。DH制がなく、投手が打席に入ることが、勝敗のポイントになるかもしれない。

阪神の監督、岡田彰布は元々、DH制には反対の意見を持つ。巨人の前監督、原辰徳がセ・リーグもDH制を…との私見を表した時も「オレは反対よ。野球がおもしろくなくなる」ときっぱりと反対している。

岡田のいう野球がおもしろくなくなる理由。まずベンチ同士の駆け引きが薄れて、野球の奥深さが薄れることを危惧した。ポイントとなるイニングでチャンスを迎え、打席に投手という局面。代打を出すのか、それともそのまま打たすのか。代打を出した場合、継投はどうする、といった決断を迫られる。これも野球の醍醐味(だいごみ)と岡田は言い切る。

かつてオリックスの監督時代、このDH制によって、試合の進め方に戸惑ったことがあると明かしている。試合序盤にチャンスで送りバントをすれば、スタンドからブーイングが起きたこともあったとか。「DH制があるから、打線はドンドン打っていく、という考え方、見方なんやろな」。

今年の第1戦、DH起用の渡辺諒がタイムリーを放った。第2戦はミエセスを使ったが、結果は出ず。阪神のDH問題も試合同様、1勝1敗というところで、10月31日からは甲子園で3試合が行われる。DH制のない本来の戦いができることになり、一気に阪神がペースアップする可能性も…。

今シーズン、投手のバットで何度も勝利を手繰り寄せたことがあった。大竹のヒット、クライマックスでの村上のタイムリー。さらに投手のバントでチャンスを拡大しての得点。もちろん代打を送り、継投逃げ切りのパタンを確立。投手の交代機を見極めた戦術は阪神の得意手のひとつになっている。

オリックスの監督、中嶋も策士なだけに、対処法は考えているだろうし、過去2年の日本シリーズの経験値は大きい。多分、互いに9番になるだろう投手の打順。戦局によって、大きく動く可能性があるだけに、監督同士の判断が、そのまま勝敗に直結することもある。甲子園での3試合、「9番投手」のところで、どんなドラマが起きるか。これも岡田マジック、中嶋マジックの腕の見せどころになる。【内匠宏幸】(敬称略)

10月29日 オリックス対阪神 2回表阪神2死、ミエセスは見逃し三振に終わる
10月29日 オリックス対阪神 2回表阪神2死、ミエセスは見逃し三振に終わる
10月29日 オリックス対阪神 8回、交代を告げるためベンチを出る阪神岡田監督
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