<イースタンリーグ:巨人5-4西武>◇20日◇ジャイアンツ球場

選手として日本ハム、ロッテ、ダイエーで21年間、コーチとしてソフトバンク、阪神、中日などで21年間(うち1年間は編成担当)、計42年間のプロ野球人生を送った田村藤夫氏(61)が、西武のドラフト1位・渡部健人内野手(22=桐蔭横浜大)が苦しんだ4打席の中に、プロで生き残るためのヒントを見た。

   ◇   ◇   ◇   

高卒、大卒にかかわらずルーキーの打者が、プロのバッテリーに自分のバッティングをさせてもらえない場面を何度も見てきた。今回、私は渡部のバッティング内容に考える力がまだ足りないと感じた。

しかし、それは“プロの洗礼”という言葉で代表されるような、若手が苦しむ姿を上から見て批評するということではない。

どうして自分のスイングができなかったのか。渡部にスイングをさせなかった巨人バッテリーの意図はどこにあったのか。推測を基に解説し、プロの壁に直面する若手選手に何かしらのヒントをつかんでもらいたい。

第1打席は2回先頭バッター。巨人バッテリーは桜井-小林(第3打席まで同じ)

<1>カット系の変化球がすっぽ抜けて内角にボール。(捕手の構えは外角)

<2>内角ストレートを見逃してストライク

<3>内角ストレートを見逃してストライク

<4>内角ストレートを見逃してボール

<5>内角ストレートを打って詰まった左飛

第2打席は3回2死

<1>外角ストレートを見逃してストライク

<2>真ん中内よりフォークを空振り

<3>真ん中内よりフォークを空振りで3球三振

第3打席は5回無死一塁

<1>真ん中へのカットボールをファウル

<2>外角カーブがボール

<3>外角カーブをファウル

<4>内角ストレートを打って詰まった左翼線付近への打球も、巨人テームズが追いつけず二塁打。

第4打席は無死一塁(巨人バッテリーは古川-山瀬)

<1>内角ストレートをファウル

<2>外角スライダーがボール

<3>真ん中高めストレートを空振り(ボール球)

<4>外角ストレートを腰が引けたスイングで空振り三振

第1打席は初球がすっぽ抜けて内角に来たことも関係しているが、渡部は内角を意識させられている。初球は変化球だと思うが、それ以降は4球続けてストレート。

これは小林の配球にメッセージがあるように感じる。先日、ロッテ石川と巨人秋広の打席を解説したが、同じように実績のある捕手や投手がルーキーに対して、どこまで対応できるか力量を計るかのような攻めを感じる。

「巨人秋広、ロッテ石川に完敗も非凡さ発揮」はこちら>>

渡部は自分の長所が何かをしっかり確認して打席に入ってほしい。力強いスイングで長打力が魅力だ。追い込まれるまではストレートに狙いを絞ってスイングするのが一般的だ。初球はすっぽ抜けたボールも2球目、3球目は制球された内角ストレート。いずれもストライクで、打ちにいかなかったところで勝負ありと言えた。

4球目のボール球を挟み、最後も内角ストレートで仕留められている。5球のうち4球が内角ストレートという組み立てに、小林の意図を感じる。普通は5球目は外角というのが定石。それをあえて内角。渡部は内角を意識したスイングをしたが、いいコースに制球されており詰まった。2球目、3球目の見逃しが、渡部の中でどこか引っ掛かっていたかもしれない。

桜井-小林のバッテリーは、第2打席は外角ストレートから入っている。渡部からすれば、第1打席で続けられた内角ストレート攻めが頭にある中、外角ストレートに手が出ない。簡単に見逃してしまうと、2球目からは連続してフォークを配し、連続空振りで3球三振。2球目以降は変化球が頭にないスイングで、手も足もでない内容だった。

第3打席は変化球を続けられて仕留められた第2打席の余韻があったのかもしれない。初球変化球にバットを出すも、3球目までに1-2と追い込まれ、4球目は再び内角ストレートに詰まらされた。記録は二塁打になったが、これは通常の左翼手なら左飛。テームズが3回にスイッチヒッターで左打席に入った川野の左翼線への打球を、グラブに当ててこぼすエラー。似た打球のため、明らかにテームズの対応は緩慢だった。同じ失敗をしたくないのかな、と感じるほどの追い方で、ヒットになったのはラッキーだった。

第4打席はバッテリーは変わっていたが、渡部は内角ストレートから入った初球を打ちにいっているが仕留め切れない。ボール球を挟んだ3球目は高めストレート。ボール球に手を出して空振り。カウントを1-2と追い込まれた。最後はこの4打席で2球目の外角ストレートに腰が引け、スイングになっていない弱い振りでの空振り三振。内角を意識していたために、外角に対応できなかった。

4打席で1安打。数字を見れば1本出ていると映るかもしれないが、実情は完敗だ。各打席で自分はどの球を狙うのか、という根本的なところで強い意志を感じなかった。スラッガーらしく2ストライクまではストレートを狙っていくのもいい。たとえ空振りでも力強いスイングは、バッテリーに圧力をかけることにもつながる。

第1打席の2球目、3球目の内角ストレート見逃しが、渡部にもやもやを残したように感じた。渡部にはいいお手本がいる。中村と山川は同じように大きな体を武器にホームランを量産してタイトルを何度もつかんできた。「打席ではどういう待ち方をしていますか?」でもいい。試合で感じたことを、直接自分の言葉で聞いてみれば、どこかにヒントがあるかもしれない。

どう打たされたか、崩されたかも、これから長いプロ人生ではむしろ大切な教訓となる必要な失敗でもある。長打という自分の武器を最大限に使い、相手バッテリーに警戒させるほどの力強いスイングを、どの場面でもできるよう練習、実戦で磨いてほしい。(日刊スポーツ評論家)