日本ハム、ロッテ、ダイエーで現役生活を21年間、ソフトバンク、阪神、中日などで2軍バッテリーコーチを21年間(うち1年間は編成担当)、計42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)が「3番一塁」でスタメン出場した巨人の高卒ルーキー秋広優人内野手(18=二松学舎大付)とロッテ石川歩投手(32)の対戦を取材した。打てなかった結果から見えてくる秋広の現在地を分析した。

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ファーム取材を続けてきて、石川対秋広の3打席は長く記憶にとどめておきたいと思う内容だった。石川が秋広を圧倒するのだが、結果が大事なわけではない。翻弄(ほんろう)された秋広がここから何を学習するのか。この試合で秋広が学んだものは計り知れないと、私は感じた。

<第1打席=初回2死>6球全球がストレート

<1>内角ストレートにやや腰が引けて見逃し0-1。

<2>内角ストレートをファウルで0-2と追い込まれる。

<3>内角ストレートがボールで1-2。

<4>内角ストレートがボールで2-2。

<5>内角ストレートがボールで3-2。

<6>内角やや甘いストレートだったが二ゴロ。

<第2打席=4回先頭>

<1>内角ストレートがボールで1-0。

<2>真ん中へのシンカーを空振りで1-1。

<3>真ん中へのシンカーを空振りで1-2。

<4>シンカーを辛うじてファウルで1-2のまま。

<5>内角ストレートに詰まった左飛。

<第3打席=6回2死走者なし>

<1>シンカーを空振りで0-1。

<2>シンカーを空振りで0-2。

<3>内角ストレートがボールで1-2。

<4>外角へのストレートに見逃し三振。

第1打席は石川にすべてストレートで攻められた。恐らく、石川もオープン戦で大きな注目を集めた秋広のことが念頭にあったのだと想像できる。どれくらいの対応力があるのか、インコースへのストレートだけで、秋広の対応力を試したように映った。途中、捕手佐藤のサインに首を振っており、この打席はストレートだけという意思が感じられた。

この第1打席が伏線となり、第2打席の秋広は内角へのストレートへの意識が非常に高くなっていたのではないか。そこへ初球、内角ストレートで、意識はさらに高まる。一転、シンカーを3球続けられて追い込まれる。ここで唯一、秋広が並の高卒ルーキーではないと感じさせてくれたのが、4球目のシンカーを辛うじてファウルでしのいだところだ。追い込まれて、ストレート1本ではなく変化球対応も頭にある中で、何とかしのいだファウルだった。

そして5球目の内角ストレートに詰まって外野フライに仕留められた。第1打席初球から、第2打席初球まで内角ストレートが7連続。そしてシンカーが3つ続いて最後は再び内角ストレート。今度はシンカーを意識せざるをえない状況で、内角ストレートに詰まらされた。石川の思い描いた攻略がここまで完璧で、秋広はついていくのが精いっぱいという内容だった。

第3打席。第1打席が内角ストレート、第2打席がシンカー。この第3打席は初球からシンカーが続き2球連続で空振りで0-2。3球目内角ストレートがボールになるが、こうなると内角ストレートとシンカーのコンビネーションで頭がいっぱいになっていても不思議ではない。そこへ、この試合はじめて外角へのストレートにバットは出なかった。恐らく頭にはなかったのだろうと推測できるが、なんとか振ってほしい場面だった。

確かに石川はうまかった。そしてこれが1軍の主力クラスのピッチングということだ。それを秋広は身をもって経験することができた。この日の石川のストレートは142キロ前後。スピードからいえば速くはない。それでも、シンカーを交え、しっかりインコースに投げる制球力があれば、第1打席から第3打席まで配球のつながりの中で打者を圧倒することもできる。

秋広には狙い球を外されたことをあれこれ考えることはしてほしくない。これは1軍で主力を務める石川の当然と言える力量だ。同じ球種を続けられるだけで、秋広のようにまだ経験の浅い打者は自分のスイングができなくなってしまう。オープン戦前半までは結果を残し注目された。それ自体素晴らしいことで、1年目から持てる能力をいかんなく発揮して1軍に食らい付いたと言える。

ここから先は、長所短所を把握したプロの投手が、欠点を厳しく突いてくる中での勝負になる。第2打席で1-2からシンカーをファウルにした反応は、先述した通りに抜きんでたものだと言える。その対応力を、より厳しい場面で、そして対戦相手が2軍よりも上のレベルの投手に対して発揮できるか、それが秋広がこれからプロで成長していく上で会得する技術となる。

秋広がプロで成長するためには、避けては通れない「3打席」であったと感じる。キャンプからすべての打席を見てきたわけではないので、断定したことは言えないが、この日のカウント球への対応、追い込まれてからの勝負球へのスイングを見て、秋広の非凡なものはよく伝わってきた。

秋広がどんな思いでこの3打席をかみしめているか。そこから学ぶべきものを身に付けたなら、将来の秋広は石川に感謝してもいいくらいの、得難い3打席だった。(日刊スポーツ評論家)