<イースタンリーグ:ヤクルト2-3楽天>◇14日◇戸田

楽天の育成ドラフト1位・辰見鴻之介内野手(22=西南大)の快足を見て、私はものすごい原石を見た思いがした。

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これだからファームリポートはやめられない。まさか、あんな快足を見せてくれるとは、みじんも思わなかった。4回、四球で出塁した銀次の代走として辰見がベンチから出てきた。三木監督が辰見の肩を抱きながら何か耳打ちしている。

珍しいな、とは思った。これが僅差の試合終盤ならば、ベンチの指示を直接伝えていると想像はつくが、まだ試合中盤。無死一塁で、ここまでする様子に、何かしらの特別なものを感じ、逆に見ているこちらも集中力が増した。そして、176センチ、67キロのスリムな体形からして足は速いのだろうと想像はできた。

カウント1-1となり、そこまでに3度けん制があった。やはり、足があるのかなと。3球目はストレート。辰見はいいスタート。捕手が二塁に送球して、ショートが捕球した時、辰見はスライディングを終えてベース上に立っている、そんな時系列に見えた。

衝撃の速さだった。ちょっと他に類を見ない速さだ。周東並みと表現してもまったく大げさではない。スタートも機敏、加速がいい。そして、ストライドもスムーズでスライディング技術もある。これは相手チームからしたら脅威以外の何物でもない。捕手泣かせだ。

走られたヤクルト竹山のクイックは1・26~27秒ほどだった。1・24が合格ラインだけに、そこまで遅いクイックではなかった。そして投球がストレートだったことを考えると、辰見の二塁ベースまでの到着スピードは、群を抜いている。

1軍で代走として使っても、あのスピードはすぐに戦力になるだろう。かなりレベルの高いクイックで、かつ厳しいけん制でリードに制限をかけ、それではじめて正確なセカンドスローでアウトにできるかどうか。楽天は育成で素晴らしい素材を獲得したと、率直にそう感じた。

代走から守備についた最初の打席では、初球を打ってボテボテの遊ゴロ。右打者の辰見からすれば、さすがに楽々アウトかなと思って見ていたが、ギリギリアウトだった。右打者で、あの内野ゴロでギリギリのタイミングというのは、これまでの私の経験でははじめてのことだ。

左バッターならば、という感想をお持ちのファンの方もいるだろうが、むしろ右打者でこれだけスリリングな場面をつくってくれるのは、本当に新鮮だ。むしろ、右打者はハンディくらいの意味合いにも見えてくる。それほどの衝撃の快足だった。

そして第2打席で、その能力を確信した。初球を打って中前打。正確にはセンター前だが、やや左中間よりという打球だった。通常打者ならシングルだが、辰見は迷わず二塁へ。普通ではあり得ない走塁となるが、ヘッドスライディングで楽々と二塁を陥れた。

もしかすると、センターは二塁に走って来ないと考えていたかもしれない。だとしても、あの打球で二塁というのは、私が対戦したこれまでの快足打者の印象を、根底から覆すほどのインパクトだった。

右打者で周東並みの俊足は、私には思いつかない。足があるバッターはもれなく左打者か、スイッチになるケースがほとんどだ。右打者で、ここまで胸がすくほどの快足は、なかなか見られない。ぜひ、楽天ファンのみならず、ファームの試合を楽しみにしているファンの皆さんは、辰見の足を見に球場に足を運んでいただきたい。

すでに楽天のファンの皆さんや、対戦チームで辰見の快足をご存じの方には、私の不勉強で大変申し訳ないが、あまりの足の速さに正直度肝を抜かれ、迷わず辰見の俊足をリポートすることにした。

こうして試合を見て、私は深く反省している。シートノックで、私は中日から楽天に移籍した阿部や、ヤクルトに移籍した三ツ俣の動きばかりに気を取られていた。中日コーチ時代に知っているから、阿部や三ツ俣の動きはどうかな、元気にやっているのかなと、そういう思いで見ていたのだが。

しかし、私が見るべきはシートノックでの辰見の動きだった。そこにしっかり目を向けておくべきだった。まったくのノーマークだった。見ておけば、肩の強さ、捕球動作、足の運び、守備範囲など、さらに多くの情報を得ることができたはずだ。

打席での辰見の構えはそれほど大きくなく、最近の右打者は右肘を張ることが多いが、辰見は脇を締めて、コンパクトな構えだった。2打席いずれも初球を積極的に打っていく姿勢もいい。

どんな右打者として頭角を現していくのか。育成からどこまで駆け上がっていくのか。周東のようにチームになくてはならない戦力になり得る「足」を武器に、強みを生かしてほしい。(日刊スポーツ評論家)

7回裏楽天無死一塁、右膝をつきながら左前打を放つ辰見(2023年4月30日撮影)
7回裏楽天無死一塁、右膝をつきながら左前打を放つ辰見(2023年4月30日撮影)