9回2死まで勝利が見えた。12日に大阪シティ信用金庫スタジアムで行われた、高校野球春季近畿地区大会大阪府予選準々決勝。府立の進学校・寝屋川がセンバツ王者の大阪桐蔭に4-5で惜敗した。

 あと1アウトだった。先発の藤原涼太投手(3年)が7回まで1失点投球。コントロールよく低めに変化球を投げわけ、バットに空を切らせた。8回には3連打で一挙4得点と一時逆転に成功。直後の8回に4-3とつめよられるも、後続をたち切った。勝利が近づいてきた9回2死二塁、3番中川卓也内野手(3年)の打球は二塁手の前へ飛んだ。しかし打球は二塁手の足の間を抜けて右前へ。同点に追いつかれると続く2死一塁から、4番根尾昂内野手(3年)に左翼フェンス直撃の適時二塁打を許し、サヨナラ負けした。

 大阪桐蔭の校歌を聞きながら、藤原は涙を拭っていた。「『不動心』でそこまで何も考えずに投げていたけど(二失の時に)心が揺れて、その瞬間に『勝負あったな、負けたな』と思いました」と一瞬の心の乱れを悔やんだ。前日11日のミーティングで達大輔監督(40)が「勝つなら8-6」と乱打戦を予想する中、藤原は「『えーっ』と思っていた。1点で抑える自信はありました」と静かに闘志を燃やした。藤原の兄は、京大野球部エースの藤原風太投手(3年=東海大仰星)。前日11日の関西学生野球春季リーグ・関大戦で、兄が完封勝利を挙げたことを母から伝え聞き「俺もやったろう」と気合も入っていた。

 寝屋川は府立校で、甲子園には56年夏、57年春夏と出場。57年夏の2回戦では早実と対戦し、エースだった王貞治氏(ソフトバンク球団会長)に延長11回ノーヒットノーランを許した。平日の練習時間は約1時間半。グラウンドも他部と共有のため、普段使えるのはダイヤモンドの大きさ程度だ。それでも藤原は「質の高い練習を納得がいくまでやっています」と試合直前以外は、選手たちが自ら足りない部分を把握し、練習メニューを組み立てている。冬場以外の土日は、ほぼ毎日練習試合。藤原が1年生の時には約100試合をこなしたと言う。

 達監督は「もうちょっとで日本中を沸かせることができたのですが…」と悔しさをあらわにしながらも「なんとなく満足するのが夏に向けて一番駄目。ちょうど最後に悔しさを持てて良かった」。藤原も「周りは『全く通用せえへんやろ』と思っていたと思うけど『勝ったろ』と思って入りました。いい試合でも勝てなかったら意味がない」と満足する様子は一切無い。南北2校が甲子園に出場できる今夏の大阪大会は、大阪桐蔭と同じ北地区。「夏、やり返したいです」と藤原。力強く夏に視線を向けた。【磯綾乃】