「ただ一生懸命やればいいっていうレベルじゃないんだよ! もっと高いレベルでやろうよ!」と厳しい言葉が飛ぶ。ここは野球スクール「APベースボールワールド」が練習を行う埼玉県三芳町の室内練習場。優しく楽しくという一般的な野球スクールとは、イメージが少し違う。

教えているのは、坂元弥太郎さん(37)だ。浦和学院(埼玉)時代、3年夏の甲子園で19奪三振と当時の大会タイ記録をマーク。プロに入ってからはヤクルト、日本ハム、横浜(現DeNA)、西武で活躍した。

その坂元さんが、2015年から地元の埼玉で野球スクールを始めた。現在、幼稚園児から中学3年まで約70人が通う。指導の根底には「良い選手になってもらうことが最高のおもてなし」という思いがある。

「プロのレベルでやるための意識付けはかなり言っています。どのような意識でその練習をしているのかをわかって10年やるのとやらないのとでは、すごい差になる。高校までやれば、ある程度にはなるんです。でもそこからどうかっていうところなんです。小中学生のうちに礎をしっかり作りたいんです」

1スクール10人ほどに分け、ソフトバンクなどプレーした有馬翔さん(29)と2人できめ細かい指導を行う。まずミニハードル、チューブやタイヤなどを使ったトレーニングで体を鍛え、その後にキャッチボールや捕球練習を行い、打撃練習で終わる。「しっかり足を使いなさい。下と上を連動させて。雑にならない」と捕球から送球の動きについて身ぶり手ぶりを交えて細かい意識付けをする。自身も練習に入ってプロのレベルを体感させ、簡単に満足させないように心がけている。

プロ野球という結果が全ての厳しい世界で、4球団を渡り歩いた。その経験から「対応力が一番大切だと思います。どこに行っても対応できるようになってほしい」と力説する。

この夏の埼玉大会、その「対応力」を見せたスクール卒業生がいる。準優勝した山村学園で1年生ながら4試合に登板した小泉裕貴投手だ。「坂元コーチからは技術的な部分はもちろんたくさん教えてもらいましたけど、意識の部分というか気持ちの運び方とかを学びました」という。スクールで学んだ経験は、高校に入って確かに生きている。

坂元さんは言う。「自分はプロ野球人生が13年でした。でも本当は20年やりたかった。その後悔は(指導の根底に)あります。あとプロや高校野球から情報を得て勉強もします。心理学や生理学とかも…」。数々の一流選手とともにプレーした自身の経験に加え、新たな知識も吸収し指導に生かす。高校野球で活躍すること、プロ野球選手になることだけで終わらず、プロ野球選手で20年活躍する選手を育てるために…。自身のかなえられなかった夢を教え子に託す。【佐藤成】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)