11月3日、BCリーグの関東地区トライアウトへ出向いた。受験者リストに書かれた、ある選手の自己PR文に目が止まった。

「外野手としては遠投125メートルの強肩と、左右両打席でホームランが打てる長打力が武器。投手としても140キロ超えの直球、カットボール、スローカーブ、高速スライダー、ツーシームを投げられる本格派です」

いや、さすがに盛りすぎでしょ、ゲームじゃあるまいし…と思った。本当にこんな選手がいたら、NPBでも十分にドラフト上位候補になりうる。しかもこの杉浦健二郎という謎の選手、高校でも大学でも野球部に所属していないようだ。話半分どころか、半分以下で頭の片隅に入れた。

名刺交換させていただいたBCリーグ村山哲二代表に「野球部に入っていない選手もいるんですね」と、謎に満ちた杉浦選手のことを尋ねた。返答に驚いた。

「彼、昨日の1次試験のブルペンで150キロを出したんです」

えっ!? そこからはもう、ゴーグル姿の杉浦選手のことばかりが気になった。写真や動画の撮影、取材とドタバタ。デスク(=上司)も「面白いね、1面に推薦してみるよ」とノリノリで、本当に翌日の日刊スポーツの1面になった。中大法学部の現役3年生の21歳。15日のBCリーグドラフト会議で新球団神奈川に指名された。詳細はニッカン・コムでも掲載中なので、お読みいただければと思う。

すごい時代になった。野球部で野球漬けにならなくても、150キロを投げられるのだ。そして野球部に所属していなくても、プロ野球選手になれる。彼の場合、スマートフォンで眺める野球動画も貴重な「師」だという。

中学までは野球部にいたが「けがで満足な結果は出せませんでした」と言う。高校ではバドミントン部。野球を辞めた理由は、彼の思いを尊重し、これまで記事にはしていない。いろいろな葛藤があったそうだ。そんな私も道半ばでの野球挫折組。辞めた理由もけっこう似ている。

自身で草野球チームを立ち上げ、動画で学び、WEBの世界で野球の人脈を広げていった。既成概念にとらわれない身のこなし。彼は従来型の組織に疑問を持つ若者たちの、パイオニアになるのかもしれない。

「野球部を途中で辞めたり、高校で続けられなかった人もたくさんいると思うんです。でも何かしら自分で調べたり、動いたりすると、力をつけることはできたんだな、伸びることはできるんだなっていうのは、いま思います」。

ちなみに、杉浦投手が自身創設の草野球チーム「相模台レイダース」で投手をするとき、捕手を務める選手はテニス部出身だとか。140キロ超の快速球を、高校野球未経験者が捕れるのもすごい。163キロを投げる高校生も現れたし、漫画のような出来事が次々と現実になるのかもしれない。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

BCリーグトライアウトを打者でも受験した杉浦(19年11月撮影)
BCリーグトライアウトを打者でも受験した杉浦(19年11月撮影)