高校野球が「アウトオブシーズン」に入った。来年3月7日までは対外試合が禁止される。

春に備え、何をするか。全国の野球部の「色」が出る季節。東海大相模(神奈川)の「冬」には圧倒される。昨年12月30日、18年の練習最終日に同校を訪れた。年の瀬の練習とは思えないほどの熱気だった。

走者付きのノックをしていた。走者は全力疾走で、スライディングもする。悪送球後のカバーリング練習も繰り返す。19年春のセンバツ出場は絶望視されていた。焦って仕上げる必要はない。それなのに。

「そんなんじゃ、横浜に勝てねえぞ!」。ナインの大声が飛び交う中、門馬敬治監督(49)は「あの空間をいかにここに持ってこられるか。とんでもないことが起きるのが甲子園。普段からその基準でやりたい。だから年内最終日でも、今日もいつも通りです」と、熱気を喜ぶようだった。

11月30日、久しぶりにグラウンドを訪れ、今年最後の練習試合を取材した。ヒットを打っても、ボールデッドになるまで白球を凝視し、すきあらば次の塁を狙う。得点して塁上に誰もいなくなっても「もう1度ここから(チャンスを)作るぞ」と例外なくベンチで声が飛び交う。

7回に一挙9得点した。加藤響二塁手(3年)がこの試合3本目の本塁打を放った。10月の秋季関東大会初戦でも初回、わずか15分間で9得点。この時も加藤は満塁弾を放っていた。

県内ライバル校の監督が「慣れていないチームは、本当に一気に持っていかれてそのまま終わってしまう」という、相模の勢い。加藤は迷いなく言う。「とにかく積極性です。初球から振ることを大事にしています。球を見ちゃうと、相手のペースにいっちゃう。自分の流れを、相模の流れを作らないと」。

ワルツ調の校歌にある「相模の流れ せせらぎて」は地元・相模川の流れを意味する歌詞だが、この強力打線の急流は、徹底した意思統一が源流にある。関東大会でのベンチで、門馬監督は「そんなところまで、というようなレベルまでこだわれ!」とナインを鼓舞していた。

「徹底」。難しいテーマだ。彼らはまだ高校生。特に東海大相模は、関東近郊を中心に中学球界のトップ選手たちが門をたたくことが多い高校だ。放っておけば「オレが、オレが」になりやすい環境なのに、それを感じることはほぼない。

来秋ドラフト候補、通算53発の西川僚祐外野手(2年)にしてもそうだ。右の強打者の本塁打を見越し、私は三塁側でカメラを構えた。レフトへの本塁打でバットを振り切る構図は、見栄えがいいからだ。それなのに第1打席、第2、第3…と一向に打席で体を開かずに打ち、私は根負けして一塁側へ移動した。

西川は「小さな構え、少ない動きでシンプルに飛ばしたい。理想はセンターに強い打球です」と言う。そう指導され、頭では分かっていても、周囲から注目されれば思い切り引っ張りたくなるのが普通のドラフト候補高校生だろう。私欲に走らず、それでいて結果を残すのがすごい。

阪神に進む遠藤成内野手(3年)は、秋田から進学した理由に「相模の覇気」を挙げた。365日不変の若い覇気と、「こっちも同じハートでぶつからなければ監督失格です」という指導20年目の門馬監督。熱に熱で応え、相互に確固たる信念を築く。来春センバツは出場有力。蓄積が生む「徹底力」が、相模の流れを支えている。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

18年を締めくくる集団走をする東海大相模ナインを見つめる門馬監督(18年12月30日撮影)
18年を締めくくる集団走をする東海大相模ナインを見つめる門馬監督(18年12月30日撮影)