古豪興国がオンリーワンの輝きを放ち、激戦区大阪大会で準優勝を果たした。準決勝では19年夏の甲子園Vの履正社を下し、決勝では西の横綱大阪桐蔭と対戦。1-3で迎えた9回に4安打で同点に追いつくなど、強敵を土壇場まで追い詰めた。惜しくもその裏サヨナラ負けを喫したが、68年夏の甲子園で初出場初優勝した興国の名を、新旧の高校野球ファンに知らしめた。

同校の草島葉子校長(61)の進めた劇的な改革が、野球部にも好影響をもたらした。祖父の惣治郎氏は創立者。民間企業勤務を経て96年に興国に転じ、13年には校長に就任した。志願者が年々減り続けていた伝統校の、再建に乗り出した。

「実は着任した早々に、ヤクザ映画の舞台に校舎を貸してほしいと依頼が来たんです。『若き日の主人公が、殴り合いをする場面に使いたい』と。即刻お断りしましたよ。これは、校舎を建て替えて、きれいにせんとアカンな、と」。やんちゃな生徒が通うバンカラ高校、といったイメージを“入れ物”から変える手法で改革。現在は男子校にありがちな殺風景さはなく、まるでシティーホテルのような明るい校舎を誇る。廊下にはシャンデリアまで掛かっており、自然と生徒の顔にも明るさが宿る。こういった独創性あふれる取り組みが功を奏した。多くの男子校や女子校が共学に転じ生き残りを図る中、興国は男子校のまま志願者が高値安定。入試では、専願のみで定員オーバーという人気が続いている。

時流に抗し、あえて男子校であり続けることの意味と、野球部の躍進は通底している。「この年代の男の子は、よく壮大な夢を語ってくれます。うちは周りに女の子がいない分、自分をさらけ出して口にします。勉強でスポーツで、そこから大化けしてゆく生徒を今まで何人見てきたことか。『履正社に勝つんや、大阪桐蔭を倒すんや』という大きな夢も、男子校ならではの雰囲気から醸し出されたと私は思うんです」。野球部の躍進に目を輝かせる草島校長の瞳は、まるで初恋の人を語る女子高生のようだ。大会終了後、同校には「他校に進学する予定でしたが、興国で野球をやりたい」と、中学生や保護者からの問い合わせが相次いでいるという。教職員と生徒の間のキーワードは「オンリーワン」。興国が、甲子園に戻って来る日が待ち遠しい。【記録担当 高野勲】

大阪大会決勝で大阪桐蔭にサヨナラ負けを喫した興国ナイン(2021年8月1日撮影)
大阪大会決勝で大阪桐蔭にサヨナラ負けを喫した興国ナイン(2021年8月1日撮影)