近鉄の12年ぶり優勝を決める代打逆転サヨナラ満塁本塁打を放った北川博敏(2001年9月26日撮影)
近鉄の12年ぶり優勝を決める代打逆転サヨナラ満塁本塁打を放った北川博敏(2001年9月26日撮影)

仕事の場である記者席であれほど興奮したこともない。01年9月26日、大阪ドーム(当時)で目撃した北川博敏の「代打逆転満塁サヨナラ優勝決定本塁打」の瞬間だ。

その頃は「パ・リーグ担当キャップ」という立場。皮肉にも現在は合併して「オリックス・バファローズ」になった近鉄とオリックスの重大な試合を、近鉄、オリックスの担当記者たちとともに見ていた。本塁打が出た瞬間、意識が遠くなるほどの衝撃を受けた。

その北川に対し、「これでおまえは“野球界の神様”になった。これからも絶対に野球でメシを食っていけるぞ」と話したのは当時の近鉄監督・梨田昌孝(日刊スポーツ評論家)だ。

99年まで4年間、梨田は近鉄で2軍監督を務めていた。そのときウエスタン・リーグで阪神と戦うたび気になるのが北川の存在だった。「いつもニコニコしていてね。自分のライバルになる若手の選手が打ってもナイスバッティング! と自分のことのように喜んでいた」。

いいヤツというかバカがつくほど真面目というか…。そう思って見ていると次第に別の気持ちが芽生えていった。「こんな選手が近鉄にいたらな…」。そして1軍監督2年目を前にした00年オフ、近鉄球団に北川獲得を依頼したのだ。

当時を振り返って梨田は言う。「あの本塁打のときは北川しかいないと思って送り出した。でも打つ、打たないというより彼がベンチにいるだけでチームの雰囲気がよくなる男だった。そんな北川にかけた」。

北川の人柄は関係者なら誰でも知っている。2年目を前にした指揮官・矢野燿大、阪神球団はなかなかステキな選択をしたと思う。

阪神に足りないとずっと言われていることは若手選手の育成だろう。例えばファームから新たな顔ぶれを推薦して1軍に供給するといったことはなかなか実現しない。コーチだけの仕事では、もちろん、ないが直接指導する立場は重い。

北川の役割はまだ「打撃担当」としか決まっていないそうだがいずれにしても若手育成には違いない。

「持ち前のやさしさ、明るさに加えて、コーチ経験も豊富なんだし。力を出せると思うよ」。古巣に復帰する北川に対し、梨田はそう期待している。それは虎党も同じだ。そして「ベンチをいいムードにする」というワザを若い選手たちに伝えていってほしいと思う。(敬称略)

就任会見であいさつする北川博敏コーチ。左は阪神谷本球団副社長(撮影・上田博志)
就任会見であいさつする北川博敏コーチ。左は阪神谷本球団副社長(撮影・上田博志)