「メンタル、やられとるわね」。前任の指揮官・金本知憲が発した言葉だ。2年前の18年5月26日の巨人戦後。新加入の助っ人ウィリン・ロサリオに代打を初めて送った試合だった。

「ちょっと打てる雰囲気がなかったので。こちらも腹をくくって代打を出しました。メンタルもちょっとやられている気がするし、表情に出てるわね。自信が…」。もう詳しく書けばこんな感じだった。

2月の宜野座キャンプでは好調。4番打者として期待されたがシーズンでは別人のように苦しんだ。結局、ロサリオはそのシーズンだけで退団している。

そんなことを思い出したのはこの日の1回表、阪神の攻撃を見たときだ。中日のルーキー岡野祐一郎の前に簡単に2死となったが四球と内野安打で2死一、二塁となった。先制チャンス。そしてボーアが打席に入った。

ここで岡野は3球連続でボール球を投げてしまう。岡野の立場になれば、これは追い込まれたと言っていい。意図的にそうするのなら別だが歩かせたくはない。もちろん打たれたくもないのだが。

「えいっ!」とばかりに投げ込んできた4球目は144キロの内角高めストレート。よし! 打て! そう思ったがボーアはまったく反応せず見逃した。おや。まあ3-0だしな。そう思った次の5球目。これも同じようなコースの145キロ真っすぐ。今度こそ! だがボーアはこれも見逃した。結局、6球目が外れ、四球。満塁となったが梅野隆太郎が二ゴロに倒れ、先制機を逃した。

これはちょっと考えにくいことだ。ボーアは大リーグでもそれなりに結果を残した打者である。チャンス。打ち頃の真っすぐ。どう考えてもフルスイングする場面だろう。そこで振らないのだ。

カウント3-2になったとき井上一樹、新井良太の両打撃コーチの表情がテレビ画面に映った。「う~ん」と天を仰ぎそうになるのを懸命にこらえている様子だった。

ボーアは前日、左腕・岡田俊哉から今季初アーチを放った。敗色濃厚の9回、先頭打者で走者のいない場面でスムーズにバットが出た。これを考え合わせれば、チャンスで硬くなる、消極的になるとしか思えない。首脳陣も解きほぐそうとしているはずだが、これはいけない。真面目な性格だけにメンタルが心配だ。(敬称略)