10月3日はマット・マートンの誕生日だった。39歳になったようだ。いなくなってずいぶんたつがまだ39歳か-と思ってしまう。言うまでもなく阪神のヒットマンとして長く活躍した外国人選手。ときに頭に血が上って荒れることもあったが普段から信心深く、人当たりのいい本当の意味での“優良助っ人”だった。

マートンとはカタコトの英語と日本語でいろいろ会話をした。そんな中、忘れられないことがある。オリックス、大リーグで記録的な活躍をしたレジェンド・イチローに関することだ。

90年代半ばのオリックス黄金時代。連日、イチローを取材していた。その中で聞かされたプロの“極意”のようなものがある。以前にも書いたが簡単に言えば「最終打席で打つ」ということ。こんな趣旨だった。

「4打席目とか最後の打席は大事なんですよ。それまで3打数無安打だったとして、そこでも凡打すれば4の0で終わってしまう。でも打てば4の1。打率もそんなに下がらないし、何より、明日というか次の試合に向けていいイメージができるんです」

そんな話を聞いていたのでマートンに何げなくその話をしてみたことがあった。するとマートンは「アイ アグリー!(そうだよね!)」という感じで目を輝かせ、大きくうなずいた。なにしろイチローの“金言”だ。元大リーガーにも効き目がある。それから勝敗にかかわらず、試合後のマートンは虎番記者が待ちかまえる通路などでこちらにウインクし「最後、打ったぜ!」と合図したものだ。

その意味でこの日の阪神、ええやんかと思ったのは9回、大山悠輔の二塁打だ。中盤以降、点差がつくとあきらめたような戦いぶりというか、良い面がまったく見られなかった。

巨人との力の差は正直、あるし、今季ここまでこういう流れになっていて苦しいのは当然だ。しかし半分、あきらめたような様子で無抵抗のまま終わるのはあかんなあ、とイチローの言葉を思い出していた。すると9回、大山が4打席目で快音を残した。

もちろん相手投手との兼ね合いもある。それでも不思議なものでその一打でムードが変わり、そこから打線がつながって4得点。最後はあの名将・原辰徳が救援投手を巡ってバタバタした。勝敗以前にこういう雰囲気をつくることが重要なのだと思う。この流れを4日の戦いにつなげてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)