吉竹春樹を知る虎党は中高年以上だろうか。85年の阪神日本一に貢献した猛虎戦士。闘将・星野仙一の下で優勝した03年、同じく岡田彰布で優勝した05年にはともに阪神コーチを務めていた。現在は母校・九州産業大付属九州産業の監督として高校球児を鍛える。

吉竹は86年オフに西武にトレードされた。名将・森祇晶が率いていた当時の西武は常勝軍団だった。吉竹が西武に在籍した87年から96年までの10シーズンで実に7度までパ・リーグ制覇をしている。

西武時代の忘れられない思い出を吉竹から聞いたことがある。打撃練習をしていると森に「何をやっとるんだ」としかられたという。「お前はバントや。バント練習だけしとけ」。そう言われたというのだ。

当時、2番を打つことが多かった吉竹は確かに強力打線のつなぎ役だった。とはいえ阪神、西武の15シーズンで553安打34本塁打を放っている1軍選手。そんな男が「バント練習だけしとけ」と言われるとは。

そんなことを思い出したのはこの日のDeNA戦、5回の守備を見てだった。1死一、二塁で代打・細川成也は投ゴロ。ガンケルが二塁カバーの遊撃・木浪聖也に送球し、併殺完成と思ったら木浪がベースに足を引っ掛け、バランスを崩してしまった。併殺にならなかったが失策は記録されなかった。しかしプロが何をあわてるのか、正直、拙いプレーに見えた。

もちろん木浪だけではない。失策数がリーグ・ワースト、12球団ワーストという話は聞き飽きた。例えば守りが不安定な選手は試合前練習、グラウンドに出ているときはほとんど守備に時間を使った方がいいのでは、とさえ思う。打撃は全体練習の前に自分で時間をつくり、室内練習場でマシンを相手にやるしかない。

大事なのは「守備だ。守りの練習だけしとけ」と言い切れる厳しさ、強さが矢野燿大以下、阪神首脳陣にあるかということだ。若い選手には嫌がられるだろうが時代が変わってもプロの厳しさは不変だろう。

生みの苦しみを味わった巨人が連覇を決めた。苦戦したシーズン当初を思えば2位につけている阪神も健闘したと言えるが、やはり巨人と比べて、見える部分、そして見えない部分での差は小さくない。まずハッキリと目に見える「守りの差」を埋めていかなければ、来季、頂点への光は見えてこないと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)