手前みそで恐縮だが日刊スポーツ東京本社で記録を担当する伊藤友一という男はこちらの想像を超える存在だ。例えば03年の虎番キャップ時代、八木裕がスタメンで出場したときだ。

「代打の神様がな。めずらしいな」と思って現場から伊藤に電話する。「なんかネタありそう?」。すると伊藤は八木のスタメンがいつ以来か、その成績、意味合いなどを、ほとんど一瞬で答えるのだ。若い頃から記憶力が怪しいこちらは感嘆するばかりだった。

業界でも知られており、朝日新聞に「データBOX」というコラムを持っている。前日26日付夕刊(大阪版)には「書く前に教えてよ」と言いたくなる興味深いデータが書かれていた。読まれた方も多いかもしれないが簡単にそのポイントを挙げてみる。

(1)新人の左打者で20本塁打以上は過去1人だけ

(2)左腕から10本塁打以上打った新人左打者は皆無

この2つだ。(1)は1リーグ時代の46年に新人だった大下弘(セネタース)で2リーグ分立以降はいない。王貞治、掛布雅之、イチローら歴代の名だたる左打者で誰も達成できていない。(2)の最多記録は同じく大下の6本である。

もちろん阪神期待の長距離砲・佐藤輝明内野手(21=近大)に関しての話題だった。新人左打者の佐藤輝が20発打てば「2リーグ制後初」、左腕から10本打てば「史上初」の偉業になることを示している。

そんなデータを知ったこともあって中日戦(北谷)に注目していた。大野雄大はもちろん、福敬登、岡田俊哉と一線級の左腕との対戦となったからだ。そして佐藤輝に安打は出なかった。練習試合とはいえ、開幕まで1カ月を切った。簡単ではない。それでも…。

伊藤に電話するとさらに教えてくれた。巨人高橋由伸は98年のルーキーイヤーに19本塁打をマークしている。だが左腕からは5本止まり。「あの天才打者でもなあ…」と言うと「でもね。34本塁打を放った2年目は左腕から11発打ってるんですよ」と言う。

そして記憶力に疎いこちらと意見がぴったり一致したのはこういうことだ。「苦しむからといって左腕と対戦させなければ打てないままになるよね」。

本当に開幕から佐藤輝を起用するのなら当然、左腕とも当たるはず。そこで本人が踏ん張れるか。そこはもちろん指揮官・矢野燿大の我慢も同じく重要になってくる。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

練習試合 中日対阪神 9回、最後を締め佐藤輝明(左)とタッチを交わす石井大智(撮影・清水貴仁)
練習試合 中日対阪神 9回、最後を締め佐藤輝明(左)とタッチを交わす石井大智(撮影・清水貴仁)