広島監督として3連覇を果たした緒方孝市(日刊スポーツ評論家)は監督就任1年目(15年)のオフ、球団本部長・鈴木清明から厳しい指摘を受けている。鈴木は緒方にとって現役時代を通じて最大の理解者だ。その鈴木が、いつになく厳しい調子で緒方に言ったのはこういう内容だった。

開幕戦に勝利しガッツポーズを決める阪神矢野監督(撮影・たえ見朱実)
開幕戦に勝利しガッツポーズを決める阪神矢野監督(撮影・たえ見朱実)

「1点差負けは選手の責任ではない。采配をふるう監督の責任だ。来季はそれを肝に銘じてやってくれ」。このシーズン、広島は69勝71敗3分けで阪神にかわされ4位に終わっている。しかし順位より鈴木が強調したのは1点差試合の重要さだった。71敗のうち、26敗が1点差負けだった。その言葉と意味を重く受け止めた緒方は翌年から3連覇を果たしている。

くしくもセ・リーグの今季開幕戦は3カードともすべて1点差での決着となった。最少得点差で勝った3チーム、負けた3チーム。阪神はかろうじて勝った方に入ることができた。

1回裏ヤクルト2死、山田を中飛に打ち取る阪神先発の藤浪(撮影・たえ見朱実)
1回裏ヤクルト2死、山田を中飛に打ち取る阪神先発の藤浪(撮影・たえ見朱実)

敵地でのヤクルト1回戦は同じ野球なのにオープン戦と公式戦でここまで違うのか、と思うほど緊張感あふれるゲームだ。そんな中、初の開幕投手となった藤浪晋太郎は制球を乱し、緊張の糸が切れそうになる寸前で粘った。降板後もチームの得点に喜び、打たれた同僚を気遣い、高校球児に戻ったような様子を見せるなどいい表情だった。

大物ルーキー・佐藤輝明も先制犠飛を放った。主砲・大山悠輔も適時打含む2安打で4番を任せられる雰囲気を十分、感じさせた。なによりサンズである。4回の勝ち越し1号ソロ、決勝2号ソロはまさに助っ人の姿だった。

8回表阪神2死、左越え2号ソロ本塁打を放つサンズ(撮影・たえ見朱実)
8回表阪神2死、左越え2号ソロ本塁打を放つサンズ(撮影・たえ見朱実)

4-3の全7得点がすべて1点ずつ入る重苦しい展開。課題の失策もポロポロと出て、なかなか成長できない面も見せたが、まずは選手が必死で粘っての勝利と言える。

それに比べて指揮官・矢野燿大の采配で勝ち切った試合とは、正直、思えなかった。7回、1点リードのしびれる場面でルーキー石井大智を投入したのは今季を占う上での作戦かもしれないが成功しなかった。

だが逆に考えれば、選手が必死で粘れるチームに仕上げてきたという見方はできるかもしれない。選手はもちろん、矢野にとっても反省と手応えを感じる試合になったはず。秋に振り返って開幕戦のあの1点差勝利があったから…と思えるシーズンにしたい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)