阪神-広島の対戦を心待ちにしていた。同じ背番号「33」をつけた2人の二塁手による“直接対決”があるからだ。開幕から絶好調で首位打者をひた走る広島菊池涼介。追走するのが、こちらも開幕から打撃が光る糸原健斗なのは野球ファンなら知るところだ。

言うまでもなく菊池は広島3連覇に貢献した名手である。糸原も好選手だが、正直、日本一のセカンド菊池と比べると守備面では差があると言わざるを得ない。プロの世界で菊池に挑戦するには攻撃面、つまり打撃だろうと思っていた。そして今季ここまで、そんな展開になっている。

試合前まで打率3割5分5厘で首位打者の菊池に対し、糸原は3割4分3厘の打率2位。この日の結果次第では抜ける可能性もあった。そして実際に“瞬間風速”で糸原が抜いた。

6回の第3打席まで無安打だった菊池に対し、糸原は同じく6回まで3打数2安打1四球と活躍。この時点で3割4分6厘になった菊池に対し、糸原は3割5分1厘にまで上げていたのだ。デッドヒートだがこの対決は数字だけではない。

糸原は1回1死から四球を選ぶと盗塁。そしてサンズの適時打で先制ホームを踏んだ。2回2死一、二塁では2点目の適時打。勢いに乗って6回にも中前打でマルチ安打を決めて「これは…」と思わせた。

だが菊池もさすがだ。8回に二塁打を放ち、好投・秋山拓巳を引きずり下ろした。同時に首位打者の座もキープしたのだ。もちろんタイトルの話をするのはまだまだ早過ぎる。それでも首位打者を争う選手たちの仕事は目を引くし、そこに猛虎の渋い野手が絡んでいるのが楽しい。

思い出すのは18年のファン感謝デーだ。首脳陣が選ぶ「フレッシュ大賞」に糸原が選ばれた。賞金1000万円。セレモニーの後で「1000万か~。400ほど回してもらえる?」と冗談をかましてみた。

すると「いいですよ。もっと多くても」とニヤリ。もちろん、これもジョーク。1円も借りてはいないけれど(念のため)そんな返しを瞬時にできるところに“大人”を感じたものだ。

真面目な大山悠輔、やさしげな近本光司、一生懸命な梅野隆太郎、若さいっぱい佐藤輝明…と野手にそれぞれのイメージがある中、さほど目立たないながら大人の風情を醸し出す糸原。悲願の優勝へ向け、キーになる存在だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)