大山悠輔にとって大きな勝利だろう。正直、敗戦でもおかしくない展開だった。開幕2戦目のリベンジを期する田口麗斗の前に先頭打者を出すにもかかわらず3イニング連続で併殺を喫し、3回まで1得点のみ。投げてはエース西勇輝が2回り目からつかまった。

極め付きは同点になっていた5回の守備だ。1死二塁から中村悠平は三ゴロ。ここで二塁走者の田口が三塁へ走る。三塁・大山はこれを刺そうとベースカバーの遊撃・中野拓夢に送ったが悪送球。この失策で勝ち越しを許すと追加点も与え、2-4となった。

大山は中盤まで打席でも振るわない。走者を置きながらことごとく凡退していた。指揮官・矢野燿大も「ちょっと前半はね。前半のチャンスでかえすというのが求められてくる」と指摘したほどだ。

「『三塁も4番も奪われましたわ』って(大山が)冗談めいて言っていた」。2日広島戦で「4番サード」をルーキー佐藤輝明に譲った。その舞台裏をヘッドコーチ井上一樹は笑いに包んで、そう明かしていた。

関西弁風に言ったのかどうかは別にして井上の話にウソはないだろう。しかし99%は冗談でも1%ぐらいは本気があったかもしれない。佐藤輝のあの活躍を見れば「ヤバいな」と感じてもおかしくないはずだ。

だからこそ「4番・三塁」復帰となったこの試合は大山にとって重要だったはず。攻守でしっかり活躍すれば「ほらね」というところだった。しかし結果は逆に出ていた。虎党の中には「佐藤輝でエエやん」と感じた人もいたのでは。

もちろん、たった1試合でどうこうはならない。それでもあの適時失策が決勝点になっていれば妙なムードがチラリ漂っていたかも…と思ってしまう。

しかし今の流れはいい。その2日にスタメンのチャンスをもらいながらモノにできなかった陽川尚将が同点適時打を放ち、試合を振り出しに戻すと終盤は得意の1発攻勢。こうなると大山もラクになったのは間違いなく9回の適時三塁打につながった。

この日は主砲が周囲に引っ張られる形になったが、それはそれでいい。若くなった今季のチーム、ナイン全員が刺激し合って戦うスタイル、ムードを矢野は醸し出している。他の打者がてこずる相手を大山が仕留める展開だってあるはず。阪神にとっても大きな白星である。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 9回表阪神1死二塁、杉山から右適時三塁打を放つ大山(撮影・野上伸悟)
ヤクルト対阪神 9回表阪神1死二塁、杉山から右適時三塁打を放つ大山(撮影・野上伸悟)