プロ野球を取材していて強く感じるのは監督、指導者が想像以上に選手の“内面”を見ているということだ。人間性というと大げさかもしれないが、どれだけ周囲が見えているか、状況を考えているか、さらに他人に配慮できているか、などの点である。

実力の世界だけど、結構、一般社会と同じような気もする。人の顔色をうかがう必要はない。でも周囲がまったく見えないようではいっしょに仕事をしていく上で、やっぱり困る。自戒を込めて、そう思う。

前日、考えさせられることがあった。宜野座キャンプでドラフト2位・鈴木勇斗がシート打撃に登板。佐藤輝明ら5人を相手に投げたものの3者連続四球を出すなどの乱調でベンチで涙を流したことだ。

「力み過ぎてストライクを入れよう、入れようという気持ちが強くなった」。鈴木は虎番記者たちの取材にそう話していたようだが、悔し涙を流す若者には文句なしで今後に期待する。

ここで興味深かったのはいっしょにその場面を見ていた広島3連覇監督・緒方孝市(日刊スポーツ評論家)が口にしたことだ。

最初に対戦した佐藤輝に1ストライクから4球連続ボールで歩かせると、続く高寺望夢も同じパターンで四球を出した。2人を歩かせた時点で捕手・長坂拳弥や内野手がマウンドの鈴木のもとに集まる。よくある光景だが緒方の見立ては少し違った。

「遅いと言うかね。佐藤輝に四球でしょ。そして次の打者にもなかなかストライクが入らない。それでなくてもルーキー。2ボールになったぐらいでマウンドに行った方がいいですよ」

捕手に求められるのはインサイドワーク、投手に対する気遣いもそれに含まれる。「矢野監督はそういうところを見ていると思います。捕手出身だし余計でしょ。捕手も新人なら難しいけれどプロで経験があるんだから、そういうところは重要ですね」。緒方はそうも続けた。

シート打撃とはいえ、次戦を想定して練習していれば当然そうする、ということだ。正捕手は梅野隆太郎、坂本誠志郎の競争だが、その意味では長坂にしても1軍入りをアピールする“機会”だったかもしれない。いずれにしてもグラウンドにいる間は一瞬も気が抜けない、明るさと同時に、そんな緊張感のあるキャンプを過ごしてシーズンに向かってほしいと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)